疾走愛ー決意ー

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その3 ケイコ 全く… 何なんだっての、ここ… どうして釣り堀なんだよ、大汗かいて走った後にさ… てっきり、チョコパだと思ってたのに…(苦笑) まあいいか、はは… で…、私は矢吹先輩に挨拶し、隣に腰をおろしたんだが ... へえ~…、テツヤはここで矢吹先輩とファーストコンタクトってことだったのか… ハハハ…、なるほど… テツヤが中2の下半身ギンギンだった頃、声をかけたのね まあ、ナンパだわな 隣りでこうして釣り糸を垂らしてた年上の女性に… だけど”その人”、当時中学生ながら、すでに空手の有段者だった訳だ で…、伸びた鼻の下、引きちぎられたと… 目に浮かぶわ、ホント(笑) ... 「横田さん…。その時、テツヤはここで土下座したわ、私に。”あなたの時”も土下座したらしいわね」 「ええ‥。私の家に来て、玄関で…」 「それって、あなたが土下座して謝れって言ったの?」 「いえ。テツヤが自主的に…。そういうことでした」 「そう…。私の時は無理やりさせたわ。大勢の人の前で恥かかせてやれって。テツヤ、絶対嫌だって粘ってね。立ったままで謝って、これで勘弁してくれってね…」 うーん…、なんだろか なんで、ここまで細かく話すのかな、わざわざ… 「あのう…、先輩、すいません。何がおっしゃりたいんですか?はっきり言ってもらってかまわないんですが、私…」 「ふふ‥、ごめんなさいね。私としたことが、回りくどい言い方しちゃって」 やっぱり、何か私に”話”があるようだ ... 「…テツヤはどうしようもないスケベよ。周りに女がいれば、とりあえずは声かけちゃうの。それってまあ、私からしたら、けしからんってことなんだけど…。コイツ、アタマではわかってても、なかなか自制できないらしくて。それがね、あなたに自主的に土下座したってのは、テツヤが変わりたくても変われなかったことを、あなたが少なくとも、そのきっかけを作った所以だと思う…」 「まだ、私にはよくわかりません…。すいません」 「…あなたのそういう凛とした姿勢には感心するわ。横田さんなら、このテツヤとも堂々と付き合っていける。好きなんでしょ?お互いに」 「私は好きです。…でも、多美とかいるところで、なんでそう言うこと確認するんですか?先輩は立派な人ですが、ちょっと…。それって、なんか…。納得がどうもです」 とにかく変だよ、こういうのって… 第一、テツヤも多美も神妙な顔して、時々頷いてるだけだし… 私が入院してた10日かそこらで、世の中変わっちゃったのかっての! ... 釣り竿を握っている矢吹先輩は、その間ずっと表情を崩していない 「許してね、口下手だから。…私、結構焦ってるのよ、正直。あのね…、自分としては、あなたには南玉連合に加入してもらいたいと考えてる。相川先輩からはNG出てるけど、それでもなおね。当然、あなたにはまっすぐ突き進んでもらいたい。それでいいのよ、要は…」 結局、そう言うことか… 矢吹先輩には申し訳ないが、”それ系”の誘いなら私は固辞しかない しかし、自分を口下手だと言う先輩の話は続いた 「…でもね、あなたは、このテツヤを目覚めさせることができたのよ。そんな人、今までいなかったって、テツヤ言ってたわ。あなたには自分の気づいていないところで、人を諭す力がある。言葉では簡単だけど、私らの年代でそれできちゃう人間、そうはいない。私はそれを、”今”の”立場”で言いたかったの。直接、あなたに…」 「先輩‥」 ... 「これ以上は…、言いたくても言わないわ。あのね、私も苦しいのよ…。今の状況もそうだけど、これからどうなっていくのかなってことを考えると…。私を南玉へ導いてくれた亜咲先輩も、ろくに話もしたこともなかったけど、私らの太陽たる紅丸さんもいないのよ、もう…。この都県境には…」 「…」 私はショックを受けた ただ、それが何を意味するのか…、この時はよくわからなかった 矢吹先輩は、ライバルの荒子さんを支える立場の最高責任者だ たかだか一高校生が、こんなに”立場”で苦しまなきゃいけないの? そんなの変だよ… 勉強とか部活とか恋とか友情とか、テレビの話題で笑ったりとか… それでいいじゃん、高校生だし、私ら ... 「先輩…、”鈍感”な私に丁寧なご教授、ありがとうございました」 「…横田さん、この夏はいろいろあるわ。あなたを含め、私たちにはなにかと”忙しい”時期になる。お互い、一歩一歩は噛みしめましょう。あとね…、うちの大月はあなたを”目標”にしてるわ…。それって、単に”走ること”じゃないのよ」 「…あのう、私もこういう性格なんで、ここではっきりさせてもらいます。私の南玉はないです。ホント、申し訳ないんですが、ご了解ください」 「わかったわ」 矢吹先輩は何とも素敵な笑顔を浮かべ、こう一言答えたあと、釣り堀を後にした
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