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「今日もご苦労様であったぞ、選ばれし魔法少女ティンクル・フラワーよ!……こたびは……げふっ!」
「てめぇ、変身解いた後はその名前で呼ぶんじゃねえって言ったろーが!」
自宅自室にて。目の前でふよふよ漂う、ネコミミついた白いひまわり?みたいな謎の物体を、私は容赦なくぶん殴った。
私にこんな面倒な仕事を押し付けやがった諸悪の根源こと“おはなちゃん”である。なんだその、捻りもへったくれもない名前は、と言いたい。花の妖精を名乗るこいつが目の前に現れたことが、そもそもの私の不幸の始まりであったのだ。
目の前に現れた謎のモンスターを、容赦なく拳でタコ殴りしていた時。そいつはキラキラと光を浴びて登場してくれやがったのである。つまり。
『ボクと契約して魔法少女になってよぉ!』
『だが断るっ!』
『ふげぶっ!』
まあこんな具合である。あまりに胡散臭いので初見の時にも思わず一発ブン殴ってしまったのだった。
ちなみにマジでこう言い放ったのである、このアホは。どこぞの大御所アニメから訴えられても知らないぞと言いたい。あと、完全にチョイスミスである。何故、大人しくて可憐な美少女ではなく、モンスターを素手でタコ殴りにできるヤンキー女を選んでしまったのか。本人いわく“お花の神様のお導き”だというが。その神様とやらは、目が腐っていたとしか思えない。
「今は家だけどな、私は一人暮らしじゃねーの!家族に聞かれる危険性があんの!いい加減学習しろ、そのあざとうぜぇネコミミ引きちぎるぞ」
「こここここわっ!殴る通り越して引きちぎるとか言ってるんですけどこの魔法少女こっわ!」
「選んだのはテメーだっつの!」
大体なぁ、と。私は涙目になる妖精モドキに、ずい、と顔を近付けて言ったのである。
「モンスターはどんどん増えるってのに、なんで私が使える技が一個しかねーんだよ!敵の技を跳ね返す必殺技しかないっておかしくね?使い勝手悪すぎね?直接ボコった方が早いときもあるって魔法少女的に間違ってんだろーが!」
そう。私の最近の最大の悩みはそれなのだ。魔法少女なのに、使える魔法が一つだけ。エンゼルランプ・ミラーバリアだけなのだ。おかげでどれだけ今までの戦いで面倒をかけさせられたことか知れない。
「もう十回は戦ってんだよ、いい加減新しい必殺技よ・こ・せ!」
「むむむむむむりだってばぁ!首絞まる首絞まってるううつ!」
「あぁ!?」
首もとを引っ付かんでがっくんがっくん揺さぶると。“おはなちゃん”は口から泡を吹きながら告げたのである。
「今の魔法少女は、経験値だけ積めば次の魔法を覚えられるような便利仕様ではないのだよ!初めの技以外はワシらでは教えられぬ!魔法少女の必殺技は自分で創造するしかないのだ!強くなりたいなら自力で頑張りたまえっ!ぎゃぁぁ!」
あまりに偉そうに宣うので、ムカついて壁に叩きつけてしまった。とりあえず、キャラを固定しろと言いたい。一人称は僕なのかワシなのかどっちなんだ。あと、可愛いマスコットみたいな見た目しておいてなんでジジイの声なんだってところにも是非ともツッコみたい。
しかも叩きつけられて鼻血を吹きながら“や、ヤバイ、癖になりそう……”とか呟いている変態ぶりである。正直ドン引きしかしない。
「ま、魔法を増やすにはだな」
そして、キモカワ系マスコットは、鼻血(鼻があったらしい)を拭きながらこう告げたのである。
「花のパワーを我が物とするしかないのだ。魔法少女の力の源は花であり……その花言葉から神秘のエナジーを発現させ、必殺技へと昇華させるのであるからな……」
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