魔法少女は花言葉を探してる

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 ***  要するに。  花と花言葉について勉強しろ、と。そうでなければ新しい必殺技は増えない、ということらしいのである。 「……面倒くせぇ」  私はげんなりした。勉強。私がこの世で一番嫌いな言葉である。そんなものが得意だったから、県内有数の偏差値底辺高校に滑り込んだりなどしていないのだ。ヤンキーの群れの中でうっかり女王様になっちゃうなんてこともなかったはずなのだ。  暗記だの、イマジネーションだの、知識だの。聞いているだけで眠くなりそうである。何でそんな面倒なことをせねばならないのか理解に苦しむ。アニメやゲームなら、相棒の妖精やら黒猫やらのアドバイスで、いつの間にか新しい必殺技が増えているというのがデフォルトだというのに。 「くっそ……花言葉って……どんなのがいいんだっつーの……」  ちなみにあの馬鹿妖精と戯れていたせいでうっかり棚の一部を破壊したため、私は渋々ホームセンターに向かう道中であったりする。信号待ちをしながら、ぼんやりとスマートフォンを見つめていた。花言葉、に加えていくつものキーワードで検索しているが、なかなかコレと思うものがヒットしない。なんせ、恋愛に絡む花言葉が圧倒的に多いからである。 「恋だの愛だので、正義の味方の必殺技になるかよ……あいつら、ろくに話も通じないんだからさぁ……」  疲れ果ててため息をついた、まさにその時だった。 「きゃぁぁぁ!」  甲高い悲鳴。見れば、交差点のド真ん中に、紫色の体の一つ目の巨人のようなモンスターが出現している。その巨人の太い腕が、女の子の首を鷲掴みにして吊り上げているのだ。やばい、気づかなかった――と私は舌打ちした。モンスターが現れる直前には、その出現場所に黒い靄のようなものが現れる。完全に見落としてしまっていた。スマートフォンに夢中になっていたせいだ。  青信号になったところで渡ろうとしていたのだろう。車は幸い停車したままになっていたが、人々が歩道でひしめきあい、現れたモンスターを見て悲鳴を上げている。吊り上げられた女の子は苦しそうに足をバタバタさせてもがいていいる。このままでは窒息してしまうかもしれない。母親らしき女性が、誰か助けて!と絶叫している。 ――た、助けねーと!でも……!  変身するために物陰に走ろうとして、私は足を止めた。私の技は、相手の攻撃を反射するエンゼルランプ・ミラーバリアのみ。物理攻撃のみで向かってくる相手には効果が薄いのだ。そんな時は拳だけでどうにかモンスターを倒してはきたのだが――あの屈強な巨人である。いくら女子にしては怪力とはいえ、果たして私の腕力だけで太刀打ちできる相手かどうか。 ――でも、でも!あのモンスターどもを倒せるのは、花の加護を受けたティンクル・フラワーだけ!私が行かなきゃ、誰もあの子を助けられねーだろーが! 『エコ殿よ』  その時。思い出したのは――魔法少女になってすぐの、おはなちゃんの言葉だ。 『エコ殿が、望んで魔法少女になったわけではないことはわかっている。でも、ワシが事情を説明してからは、おぬしは一度も出動要請を断らなくなった。何故だ?危険なモンスターを相手に、魔法少女を恥ずかしいと思っているおぬしが……それでも変身して立ち向かう理由はなんだ?』  そうだ、あの時彼は言ったのだ。魔法少女がこなせるのは、勇気あるものだけ。どうしても嫌なら断る方法もないわけではないと。  そう、それでも。嫌々でもやると言ったのは――他ならぬ私である。何故なら。 『魔法少女はイヤだけど。……それ以上にモンスターが許せねーんだ。あいつらは、か弱い子供を狙う。その肉が魔力の源になるからって理由で、子供達を傷つけ、苦しめ、悲しませるだろ。……それが我慢できねー。あいつらをぶっ倒せるってなら……やるしかねーだろ、誰かが魔法少女ってやつをさ』  そうだ。  そもそも、ヤンキーになったのは、カツアゲされている少年を助けたことがきっかけで。  魔法少女を引き受けたのも、子供達を救いたかったからで。 ――私は……魔法少女なんて、マジで恥ずかしいと思ってるけど、でも。  子供の頃から。小さな頃、いじめられていたのを助けてくれた友達を見てから。ずっとずっと、夢見ていたことがあったのだ。  ヒーローになりたい。  弱い人たちの味方になり、守るためのヒーローに。だから、自分は。 「!」  その時。植え込みの脇から、にょっきりと生えているものに気がついた。何処にでもしぶとく咲く雑草と名高い花――蒲公英(たんぽぽ)である。  そういえばさっき、花言葉を調べたものの中には蒲公英もあった。極めて身近な花であるからである。でも、その花言葉は少々微妙で――これでは必殺技には役立つまいと切り捨てたのだ。 ――いや、でも待った。……蒲公英の花言葉……使いようによっては……。 「苦しいよぉ……助けてぇ……!」 「!」  女の子の悲鳴が耳に入る。もはや一刻の猶予もない。私は腹を括って、ビルの影に飛び込んだ。  今思い付いたものを、果たして実行できるかどうか。完全にぶっつけ本番だが――やってみるしかない。 「ステージオン!花開け、“ティンクル・フラワー”!」  ピンクの、ひらひら衣装に身を包み。私は交差点へと飛び出した。  途端、すっかり有名になってしまった影響か、人々の間から歓声が上がることになる。 「ティンクル・フラワーだ!」 「ティンクル・フラワーが来てくれたぞ!」 「お願い、助けてティンクル・フラワー!」 「期待してるよ、お願いっ!」 ――くっそ、衆人環視の前とか、趣味じゃねーってのに! 「ゴウフ?」  突然現れたド派手な魔法少女に、一つ目の巨人が振り返る。  私はキラキラのステッキを構えて、叫んだ。 「覚悟しろ!ぶっ倒してやる……私の、新技で!!」
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