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魔法少女は花言葉を探してる
「“エンゼルランプ・ミラーバリア”!」
「ぎゃぁぁぁ!」
私がステッキを振って叫ぶと、私の目の前には花を象ったピンクの魔方陣が現れる。敵が放った黒いオーラは見事に弾き返され、モンスターは悲鳴を上げた。
「エンゼルランプの花言葉は“あなたを守りたい”、だ。お前なんぞに、ガキどもはやらせたりしないよ!」
真っ黒な影のようなモンスター“シャドウ・ステップ”は。自らの邪悪なオーラを浴びて、どろどろに溶けていく。
「はっはっは!ざまぁみろや!この“ティンクル・フラワー”様に倒せない悪はないんだ!」
胸を逸らして高笑いしてから、私はア、と青ざめた。今の品のなさは完全に、魔法少女というよりもヒールのそれである。いつもならいくら“素”を出してもいいが、今日ばっかりは駄目だった。――なんせ私のすぐ後ろには、可愛い幼稚園のボクちゃん嬢ちゃんが控えている。幼稚園の先生は敵の攻撃で気絶しているからいいが、子供達はばっちり見ているはずなのだ。なんせ、お散歩中にモンスターに襲われた彼らを、魔法少女に変身した私が助けに入った――というシュチュエーションであったのだから。
――や、やっべえ。
私はもう、冷や汗だらだらである。つい、普段の自分――ヤンキー娘の花咲エコ――を思いっきり見せてしまった。おしとやかで可愛いイメージ、があるであろう魔法少女らしくない。まったくない。子供達の夢を壊してしまわなかっただろうか――恐る恐る彼らを振り返った私は。
「か、かっこいいいいいい!」
「すごい、ほんものの、ティンクル・フラワーだぁ……!」
どうにか、その心配が杞憂で終わったことを悟るのである。私はほっと胸を撫で下ろした。
やりたくもないのに押し付けられた、魔法少女という“お仕事”とはいえ。子供に恨みはないし、子供達を傷つけるモンスター達はやっぱり許せない。無駄に有名になってしまった魔法少女ティンクル・フラワーとして、今後はもう少し“体面”を気を付けなければいけないなと思う。
いくら髪の毛の色が茶色から金髪に変わっているとはいえ。
ショートカットがでっかいリボンのついたツインテになっているのはいえ。
ヒラヒラピンクの、お姫様のようなドレスかつ、無駄に露出の高いミニスカ姿とはいえ。
顔は、あくまで私そのままなのである。声も同様。しゃべり方のせいでバレたりしたらたまったものではないのだ。
そう、秘密は守られなければならない。
芥川第八高校きっての鬼の女番長――花咲エコが、実は影でこっそり魔法少女をやってます、なんてことは。
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