いろ、いろ、いろ。

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いろ、いろ、いろ。

 F公園のチューリップ畑には、秘密があるという。  なんでも、隣の神社から“特別な神様”とやらを招くというのだ。  逢魔が時にそこでお祈りをすると、神様が奇跡を起こして願いを叶えてこれるのだとか、なんとか。 ――そういうの好きよねー女って。  私はやや馬鹿にした気持ちで、そのチューリップ畑に来ている。別に、そんな都市伝説なのか噂なのかもよくわからないものを本気で信じているわけではない。ただ“本当だったら面白いからネタにしてやろう”という気持ちと、“できれば叶えたい願いがある”というそれだけの話だ。それが、私に都市伝説を教えた友人であるアズサに絡む話だから余計に、だ。 『メグミちゃんって、いっつも頼りになるよね!』  アズサとは、小学校の頃からの幼馴染である。割と何でもそつなくできる私と、不器用で何をやってもダメなアズサ。私はそんな彼女を不憫に思い、友達としてずっと守ってきてあげていたのである。  勉強を教えてあげることから、班行動で指揮を取ることまで。スポーツだって、走るのが速くなりたいというからダメなところを指摘してやったし、美術の授業でも彼女の絵の短所を教えてアドバイスしてあげたくらいである。勉強、運動、部活。彼女は何から何まで私の言うことを忠実に聞いた。私がいないと何もできないような少女であったので、必然的に中学から高校まで同じ学校に通ったものである。残念ながら、クラスまでは全て一緒になることは不可能であったのだけれど。 『これからもよろしくね、メグミちゃん。メグミちゃんの言う通りにしていれば、なんでもうまくいくんだもんね』 『当たり前でしょ。あんたは私がいないとダメなんだから。正しいことはちゃんと私が教えてあげるから、これからも言う通りにするんだよ?いい?』 『うん、そうするね!』  馬鹿な奴、と。心の奥底で、いつも彼女を笑っていたのである。自分で何も決められないから、誰かに思い通りにコントロールされても気づかないのだ。そもそも、一番最初に小学校の時にアズサに声をかけたのだって、彼女がおどおどしていてブスで、自分の引き立て役として丁度良いと思ったからに他ならない。  彼女と一緒に歩けば、自分は誰が見ても素晴らしい美少女に見えたはず。そしてダメ人間の彼女と比較して、何でもできるかっこいい女の子として評価されてきたはずなのだ。実際、アズサを“庇護”してやった期間、男の子に告白されたことは数知れずあったりする。――どいつもこいつもイケメンには程遠かったので、お付き合いするには至らなかったけれど。
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