いろ、いろ、いろ。

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――そんでもって、私のこと本気で親友だと信じてるんだもん。バッカじゃないのっていう。あんたみたいに一緒にいても何も面白くない、メリットゼロの女。誰が好き好んで友達になんかするもんですか。  表で少し優しい顔をしてやれば、すぐにころっと騙されるアズサ。見ていて爽快だった。他の友人達とは影でこっそり、アズサの馬鹿なところを挙げ連ねて笑ってやったものである。それこそ彼女達と怖い話をして盛り上がる時などは、ブサイクだったりひどい目に遭うモブ女の名前は全て“アズサ”にしてやったほどだ。  そういう意味では、彼女は非常に自分達にとって有用な存在であったとも言える。本人が気づいてなければ、いじめはいじめにならない。先生達に叱られることもない。ストレス発散のはけ口として、実に丁度良い存在だったのである。なんせ、容姿から頭の出来、運動神経に至るまで、彼女は何一つ私達に勝るところがない。自分達の“出来の良さ”をいつも再確認させてくれる、実に素晴らしい存在であったのだから。  そう、そのはずだったのだ。  高校二年になったばかりの春――彼女が恥ずかしそうに、こんな話をしてこなければ。 『メグミちゃんの言うことは、いつも正しいよね。メグミちゃんのアドバイスの通り……私、頑張ってみたの』  去年の暮れ。彼女に持ちかけられた相談は、好きな人が出来たというものだった。その相手は、なんと同学年でも一番のイケメンであるヒバリ君。私は死ぬ気で笑いを堪えなければならなかった。いくらなんでも身の程知らずがすぎるというもの。ジェニーズタレントばりの美少年で、テニス部のエース。おまけに学年トップという、高嶺の花もいいところの彼を相手にあのアズサが片思いなど。図々しいを通り越して、あまりにも滑稽でしかなかったためだ。  これがもう少し可愛い見目の女の子なら、自分も怒りを感じたのかもしれない。ヒバリ君を彼氏にして隣を歩かせることができたら。そこそクラスどころか学校中に自慢することができただろう。それだけのステータスの相手、万が一告白が成功するようなことがあってはならない。私もきっと、死ぬ気で阻止するなり邪魔するなりを考えたと思うのだ。  が、それを言い出したのがアズサである。おとなしくて優柔不断、勉強も運動神経も私達の誰より悪く、何より太っていて不細工。万が一、の見込みもない。だから私は、転げまわって笑い出したいところを抑えて言ったのだ。  告白してみればいい、と。応援してるよ、と。 ――100パー失敗するに決まってると思ってた。あのヒバリ君が、あんなデブスを相手にするわけないって。なのに。  ギリ、と強く拳を握り締める。  一体どんなマジックを使ったのか――あるいは、ライトノベルの女神様にチートスキルでも貰ったのだろうか。そうとしか思えないような事故が起きてしまった。あのアズサの告白を、ヒバリ君がOKしてしまったのである。
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