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出発の前の日にはいつも、以前にいた街での別れの日を思い出す。
『手紙、書くよ。元気でな』
そう言って送り出してくれた友だち。
『……そっか。じゃあ、約束してた来週のハイキングは一緒に行けないんだ』
直前まで黙っていた僕にそう言って目を丸くしながら問い返してきた友だち。
大きく見開いた目がやけに子供っぽくて、僕はあの時思わず笑ってしまったんだ。
『なに笑ってんだよ』
拗ねた口調でそう言った彼に対し、僕はずっと笑い続けた。
だって。
そうしないと泣き出しそうだったから。
涙が止まらなくなりそうだったから。
どんなに繰り返しても慣れない。
心がズキズキと痛んで、胸の中に大きな塊ができる。
その塊をぐっと飲み込んで、僕は歩調を早めた。
商店街を通り抜け、小学校の前を通り過ぎ、通学途中良く寄った河原へと出る。
よかった。
誰にも会わずにすんだ。
「変なの」
僕はつぶやく。
父さんは別れの挨拶をしてきなさいと言って僕を送り出したというのに、当の僕は、誰にも会わずにすんだことに、こんなにほっとしている。
相変わらずの天の邪鬼。
表面だけで良い子ぶってる小鬼だよ。これじゃあまるで。
「…………!」
やはり神様はいるのだろうか。
河原の隅に腰を降ろしている見慣れた少年の背中を見つけ、僕は息を呑んだ。
誰にも会わずにすんだと思った矢先にこれだ。
つくづく神様という奴は僕を苛めるのが趣味のようだ。
それとも、僕が素直じゃないから、その戒めだとでもいう気なのだろうか。
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