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翔くんは予想通り大きく目を見開いて、びっくりした顔をしている。
明後日でこうなんだから、本当の事を言ったら、彼はどんな顔をするのだろうか。
「明後日? そんなに急に?」
「あ……うん。そう」
罪悪感が押し寄せる。
でも、今更本当のことなんか絶対言えない。
言えるわけない。
だって、翔くんはきっとこう言う。
『なんで嘘ついたの?』
僕はその質問に答える術を知らない。知りたくもない。
ごめんね。翔くん。卑怯者で。
だって、僕は。
「じゃあさ、明日、晋くんのお別れパーティしようよ」
「……えっ?」
翔くんがそう言って精一杯の明るい笑顔を僕に向けてきた。
「お……お別れパーティ?」
「うん。オレん家でもいいし。あ、そうだ。多岐くんの家なら部屋も広いからみんな呼べるし、そのほうがいいかな?」
翔くんの頭の中でどんどん計画が立てられていく。
「これから多岐くんに連絡取って、大丈夫ならみんなに声かけなきゃ。昼過ぎでいいよね。晋くんの家まで呼びに行くよ」
「あ……う…うん」
僕は曖昧な笑顔で翔くんに向かって頷いた。
きっと翔くん達が僕を呼びに僕の家に来た頃、僕はもう此処にはいないだろう。
次の場所に向かう列車の中だ。
これは裏切りなんだろうか。
翔くんに対する裏切りなんだろうか。
別れの言葉も、見送りも、そういったもの何もかもを拒否する僕の行為は、今まで過ごしてきた仲間に対しての最後の裏切り行為なんだろうか。
ごめんね。翔くん。ごめんなさい。神様。
僕は最後の最後で、こんなに僕のことを思ってくれている友だちを騙そうとしています。
でも、本当に嫌なんだもの。お別れ会も。見送りも。
先の約束なんか出来るわけないのに、社交辞令で、また逢おうねなんて、そんな事、笑顔で言い続けるのはもう限界なんだ。
だったら、まだ責められた方がまし。
何も言わないで消えた方がまだましなんだ。
期待せずにすむから。
だって。
大切だから。
誰よりも、何よりも大切だと思ったから。
少しでも期待をしてしまったら、きっと耐えられない。
僕は。
「じゃあ、晋くん。明日ね」
そう言って立ち上がり、走り去っていく翔くんの後ろ姿を僕はしばらくの間じっと見送っていた。
まだ色づき始めてもいないすすきの穂が目の端に映って、それがなんだかとても哀しかった。
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