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「お前……晋…その荷物なんだよ。出発は明日だったんじゃあ……」
この数ヶ月、一緒に机を並べて勉強をしたクラスメイトの一団と、僕はばったり道ばたで会ってしまったのだ。
僕だけじゃなく、父さんまで一瞬困った顔をする。
「あ……うん。その…急に予定が早まっちゃって」
嘘に嘘を重ねる。こんなことをしても無駄だろうに。
「嘘つけ。昨日はっきり明後日だって翔に言ったんだろう。そんな急に予定が変わるわけないじゃん」
思った通り、久喜くんが口を尖らせてそう僕に詰め寄ってきた。
「……ったく、しゃあねえな。多岐ん家に行ってくるか。今日は翔も奴の家で明日の準備してるはずだから」
明日の準備。
それって僕のお別れパーティのことだ。
「それより駅前のデパートに行ってんじゃねえか?」
「買い出しかあ。その可能性もあるな」
そうこう言ってるうちに久喜くんはダッシュで駆け出していった。
向かう先は多岐くんの家のある方角。
「……いい加減にしろよ。晋」
走り去る久喜くんの後ろ姿を見送りながら澤村くんがぽつりとつぶやいた。
「お前が聞きたくないなら、さよならも、また逢おうも言わないけどさ。でも、残されたほうの気持ちも解ってやれよ」
「残されたほう……?」
「連絡ってのは晋にとって一方通行のものなのか? お前の居場所がわからなければ、こっちだって会いたくても会いにいけないんだ。手紙を出したくても宛名が書けないんだ。そういうの解れよ」
「……!」
「本当はお別れ会の時、花束でも渡そうかってみんなで話してたんだけど、もう間に合わないから、これをやる」
「……ってこれ?」
澤村くんが差しだしたのは、昨日河原に茂っていたすすきの穂だった。
「花でも何でもないんで、ずいぶん失礼な贈り物だと思うんだけど、今のお前に渡したくなった」
「……どういうことか解らない」
「わかんなきゃ、わかんないでいいから」
「…………?」
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