当日

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「晋くんー!!」  翔くんの声に僕はバスの窓を開けた。 「……翔くん!?」  翔くんは必死な顔をしてバスを追いかけて走っていた。 「晋くん! 元気でー!!」  バスには追いつけないだろうに、翔くんは手を振りながら走り続けている。  必死な顔の翔くんに、先程の澤村くんの声が重なった。 『残されたほうの気持ちも解ってやれよ』 「…………!?」  その瞬間、僕は思い出した。  翔くんのお父さんが、先週、単身赴任で海外へ行ってしまったのだということを。 『晋くんはお父さんで、オレはお母さん』 『同じ二人暮らし体験者だね』って。  泣きそうな顔して笑いながら、そう言っていたことを。  なのに。  僕は。  僕は。 「晋、あまり乗り出すと落ちるぞ」  見かねて父さんは僕の身体をバスの中に引き戻した。 「此処にはまた来ような」  慰めのつもりなのか、父さんはそっと僕に言った。  ポロリと涙がこぼれ落ちる。  もう、どうしようもない。  つけてしまった傷は、もう取り返しがつかないだろう。 「……ねえ、父さん。すすきの花言葉ってなに?」 「さあ、なんだったかなあ……」  考え込むように父さんは腕を組んだ。  僕も自分の記憶を辿る。でも思い出せない。  なんだったっけ。 「向こうに着いて時間があったら本屋にでも寄って調べてみるか?」 「……うん」  頷いて僕は自分のリュックを胸に抱え込んだ。  いつかまた。  僕は、もう一度此処へ戻ってくる。  立ち寄るのでもなく。  通り過ぎるのでもなく。  戻ってくる。  いつかきっと。  きっときっと、戻ってくる。  戻ってきてみせる。  夕方、立ち寄った本屋で花言葉の本を手に取り、僕は再度自分自身にそう誓った。  すすきの花言葉は、『心が通じる』だった。                          完
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