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塔、塔、さらに、塔。 ざっくりと説明すれば、正位置でも救いようのない最凶というのにくわえ、逆位置でもかなりの致命傷からの復帰、というカタストロフィを告げるカード。それが大アルカナの第十六番め、「塔」。 わたし、フォーチュン・カウンセラー──恰好つけてこう自称する──小留瀬(こるせ)(あゆみ)は、最初に引いた正位置の塔を見て衝撃を受け、念入りにシャッフルして再び塔の正位置が出て嗚咽し、最後にとどめの一撃のように正位置の塔が出て、修辞的な意味ではなく文字通り自我(ゲシュタルト)が数瞬のあいだ崩壊した。 三度シャッフルした七十八枚の大小アルカナをひいて、それがすべて同一の同位置である可能性に想いを馳せては、あまりの偶然、あるいは残酷な必然に圧倒され、フォーチュン・カウンセラーの仕事など辞めてしまおうかなどと悩んでいたことさえけし飛んでしまった。 もうこんな仕事辞めろといわんばかりだ……。 秋葉原の駅から離れた、むしろ末広町のほうに近い雑居ビルの狭い一室。わたしのタロット占い部屋〈ルラーシュ〉はそこにある。仕事の経費として、アトリエ・ボズのゴス服を買い、それを占い師らしく着こなして市川から通勤する。 パンチドランカーのようにふらふらと歩きだして、わたしは雑居ビルの階段を一段一段ゆっくりと登り、屋上へ出た。マラルメの詩のような、雲一つない蒼穹(そうきゅう)が威圧するように広がっている。 とくに意味はなかったが、生き馬の目を抜く秋葉原の象徴のようなダイビルやUDXビルのほうに向かい、かすれた声で絶叫した。 「どうして! どうしてなの! わたしだって前はよく当たると評判だったのに!」 言葉がそのまま人間の可聴範囲を超えて、大きな波となって秋葉原から広がっていった。そして、水平方向だけでなく天上にまで。 そして神を呪った。ファッキンゴッド! わたしはとくに何の宗教にも帰依していないけれど、タロットカードの聖別に、旧約聖書の詩篇から、ダビデ王が悔恨する第五十一番を朗誦するため、暇なときを見計らっては聖書のほとんどを読んでしまっていた。
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