32人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
6
「過苺食症か、あるいは……こちらのほうが危険度が高いかもだけど、あなたの彼氏さんは苺の妖精の恨みを買ってないかしら」
「……妖精ですか」
「ええ」
「……苺の」
「ええ」
神様が実在するのだから、苺の妖精ぐらいいてもおかしくはないだろう。
それでもわたしはカードをシャッフルして7枚からなる意思決定スプレッドを展開した。イエス・ノーを司るポジションに「愚者」が逆位置で出た。彼女には告げないでおこう。
苺狂いの彼氏は、詐病のはずだ。このクライアントの女の子と手を切りたいか、あるいは反応をテストしているのだ。妙に攻撃的なスプレッドで、ソードのカードが多い。また、イエス・ノーとは違うものの、別の重要なポジションに小アルカナのソードIIIがある。
ハートが三本の剣で刺し貫かれているという、かなり見た目のインパクトの強いカードだ。
おそらく彼氏さんの願いは別れたいのだろう、それでもこの子がどう出るかわからなくて怖い、そんな気がする。
例えばの話、今のわたしなら、この子の態度と展開されたカードでわかる。彼女は彼氏さんに捨てられることを自分の死と考えている。
「どうしたらいいのかなぁ」
わたしはやはり聞く者には辛い言い方をせざるを得なかった。
「あなたがまずしゃんとしなさい。もし彼が過苺食症でも苺の妖精の恨みを買っているにしても、それをどうにか理性的にフォローできるのは誰? あなたのはずでしょ。今までなにしていたの! これは一度、あなたと彼氏さんで、お互いのことを徹底的に話し合ってみることね。どうせ、LINEでスタンプをぺたぺたやってはろくな会話も交わしてないのでしょう」
彼女はもう涙目になっていた。
それでも、彼氏さんと生きてゆこうという決断をしたようで、鑑定料金にけっこうプラスしてチップをはずんでくれた。
そしてその夜のことだった。
夢のなかでわたしは餓鬼のように苺を貪り続け、その咎で苺の妖精たちによる凄惨なリンチを受けたのだ。苺の妖精たち、と書くと大したことがなさそうだけど、人間サイズ、もっと大きいかもしれない、胴体が苺、髪には蔕の飾りがついたメルヘンな恰好で、椅子に縛り付けられたわたしを殴ってきたり蹴り飛ばしてきたり挙げ句の果てには釘のたくさん打たれたバットでわたしの腹部や頭部を殴打してくる。
これでわたしはまた死んだ、夢のなかで。しかも撲殺だ。
これ以降のことは書くに及ばないんじゃないかしら。
最初のコメントを投稿しよう!