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「僕ね、また転校するんだ」
光基と晴紀と和志が同時に僕を見た。
「たぶん、二、三日中には、此処から離れる」
「ほんとに?」
「うん、本当」
絵が完成したから、次の土地へ行くんだ。
そう言うと三人は残念そうな、寂しそうな顔をしてくれた。
「僕ね、みんなと一緒に全国大会行きたかった。そんな先まで居られないのわかってたから無理なのは承知だったんだけど、本当に、みんなと一緒に本州に乗り込みたかったな」
本当に。
叶わないことはわかってた夢だけど。
「なに言ってんだ。行こうぜ。全国大会」
突然、光基がそんなことを言い放った。
僕を含め、残りの二人がぽかんと口を開ける。
「光基? お前、何言ってんだよ。今の晋の話聞いてなかったのか?」
「聞いてたよ」
「だったら……」
「別に味方同士じゃなきゃ、一緒に行ったことにならねえのか?」
「……え?」
その場にいる全員がさらにあんぐりと大きく口を開けた。
「いいか晋、お前、夏には絶対サッカーの強い学校に転入しろよ」
サッカーの強い学校に?
それでどうしろと?
「そんで、その学校が全国大会に出場してきたら、俺達、また一緒にサッカーできる」
一緒に?
サッカーができる?
僕ははっとした。
「それって、全国大会にでれば、敵と味方に別れたとしても、一緒にサッカーできるってこと?」
「そのとおり」
言葉が出なかった。
今まで、どんな場所も通り過ぎるとそのまま忘れ去られていた僕に、光基は未来の約束をくれた。
ずっと。
ずっと一緒にサッカーをしよう。
ひとつのボールを追って同じグラウンドに立って。
時には味方同士で。時には敵同士で。
僕は涙でぐしゃぐしゃになった顔をあげて、力強く光基に向かって頷いた。
「ずっと一緒にサッカーをしよう」
アパートに戻ると、父さんが心配げな顔でずっと僕のことを待っていてくれた。
僕は父さんに絵を返し、ごめんなさいと頭を下げる。すると父さんはそんな僕を見て、小さな声で、お前のおかげで一段と良い絵になったろう、と笑って許してくれた。
それから三日後、僕達は四国に向けて旅立った。
向こうに着いたら絶対に住所を教えろとしつこく晴紀が言うので、僕は四国に着いた最初の晩、借りたアパートのそばの公衆電話から晴紀に電話した。
今度の学校にはサッカー部がないそうなので、隣町のサッカークラブを覗きに行こうと思ってると言ったら、晴紀は頑張れよって、でも、あんまり俺達のライバル増やすなよって、笑いながら小さな声で言った。
そして、それから二週間後。
晴紀から僕の所に一通の手紙が届いた。
中身は小さな押し花とみんなの寄せ書き。
花はもちろん白い雪割草だった。
完
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