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「やっぱり、お前、雪割草みたいだ」
ぽつりと晴紀が言った。
「知ってるか? 雪割草の花言葉」
「……?」
「雪割草の花言葉はね……」
「忍耐だろ」
突然の後ろからの声に、僕達は驚いて振り返った。
「光基!?」
「お前、結構足早いのな。急いで追いかけたのに、こんなに引き離されちまった」
そう言って笑いながら光基は僕に手袋を投げてよこした。
「ほら、これで完全防備。寒くなくなったろ」
晴紀がくれたマフラーに、光基がくれた手袋。
光基の言葉に従いおとなしく手袋をはめると、凍えた手にじんわりと奥から暖かさが戻ってくるような気がした。
「……雪の下でさ、ずっと寒さに堪え忍んで、ようやく春先に花を咲かせるんだ。雪割草は」
ちょっと歪んでいた僕のマフラーをきちんと巻き直してくれながら、晴紀が言った。
「辛いこといっぱい抱えて、でも、それをじっと我慢して、俺達に春をプレゼントしてくれるんだ」
「…………」
「知ってたか? 実はさ、俺達が全国大会にいきたいって思うようになったのって、ここ二ヶ月くらいなんだよ」
「……え?」
「お前を見ててさ、やっぱ全国ってすごいなって思ったんだ。本州にはすごい奴らがいっぱいいるんだろうなあって。だからそいつらと戦ってみたくなって」
「…………」
「晋の存在が、俺達にそんな気持ちを運んできてくれたんだよ」
「僕の…存在が?」
「そうそう」
にこりと笑みを浮かべ、晴紀は大きく頷いた。そして真っ直ぐに僕を見る。
「俺、雪割草、好きだよ」
「…………」
「すごく、好きだよ」
晴紀の言葉を聞いていると涙が溢れてきた。
マフラーも手袋も暖かくって、涙がとまらなかった。
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