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「ね、ねぇ、なんか様子おかしくない?」
隣の藤も異変に気付いたのか、一輪の藤にそう聞いてきた。
他の周りの藤たちも、ソワソワしている。
会話が終わったのか、おじさんと若い弟子たちが藤が咲いている下に着く。
一輪の藤の前にはおじさんが立っていた。
「おじさん?」
おじさんの顔は、今にも泣き出しそうな、悔しそうな表情を浮かべていた。
「……ごめんな。せっかくキレイに咲いたのに……。ごめんな、ごめんなっ……!」
初めて、おじさんの言葉が分かった時には、僕の意識は遠のいていった。
ーーー最後の言葉は、とても悲しい謝りの言葉だった……。
*
意識が遠のいていたはずの、一輪の藤が意識を取り戻した。しかし、たくさん咲いていた藤が一気に減っていた。
残りの藤たちも呆然としていた。それよりも、地面には切り落とされた藤の花が大量にたまっている。
「……おじさん……どうして?」
一輪の藤はポソリと呟く。
「どうして……。切られてるの? どうして……?」
おじさんは、藤の花が咲いていた近くのベンチに座り込み、愕然とした様子で静かに涙を流している。
「これが……人をダメにする……カゼだ」
「あ!」
離れた藤がたまっている藤たちの中にいた。
まだ、意識がある様子で一輪の藤に言った。
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