藤華

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「……ヒトをダメにする」 「そうだ……」 一輪の藤は、おじさんの言葉と表情を思い出した。 『ごめんな……。せっかくキレイに咲いたのに……ごめんな……』 泣いていた。 おじさんは、あの時泣いていた。 悲しみ、悔しさの涙を流していた。 「……おじさん、泣いていたよ……。僕たちにも謝っていた……。今も泣いてる……」 いつも優しいおじさん。 藤たちの面倒を誰よりも多く見てくれた。 誰よりも大切で優しいおじさん。 ベンチに座っていたおじさんが立ち上がって、こちらへと来た。 また、一輪の藤の前に来たのだ。 一輪の藤の花は、半分だけ切られていた。 美しく垂れ下がっていた藤だった。 おじさんは、優しい手付きで一輪の藤に触れる。 「……。ごめんな、オマエの仲間をこんなことにして……ごめんな……。オマエたちは、何も悪くない、悪いのは全部オレたちだ……。オレたちの勝手な都合でこんなことして……オレは……園長失格だ」 一輪の藤は、「そんなことない!」と言いたかったが、やめた。 どうせ、僕の気持ちはおじさんには届かない。そう思ったからだ。 そのあと、おじさんは刈り取った藤たちをビニール袋に詰めて、若い弟子たちを引き連れて、藤の花公園を出た。 残された藤たちは、悲しげに風に吹かれている。 しかし、一輪の藤だけは違った。一輪の藤は残された藤たちにこう告げた。
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