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外の世界に憧れる娘
妖刃暴と名付けられた刃渡り三寸の長刀。これが天涯孤独のアタシの武器。
亡き父の形見だ。アタシの父はここ、雲州の村を含む、周辺五つの村の用心棒をしていた。
死者の魂が何かしらのモノに憑りつくことで生まれる魔物から、村人を守るというのが一応の大義なのだけど、ほとんど魔物が村を襲ってくることはなく、仕事の大半は村人たちの困り事を手助けする、まぁ雑用係みたいなものだった。
父は元々武士だったわけではなかったのだけど、母を魔物に食い殺されたのをきっかけに、剣の道へと足を踏み入れたらしい。
目の前で魔物に喰われる母を前にして、何も出来なかったことが悔しくて堪らなかったのだそうだ。
当時アタシはまだ三つで、ほとんど母の記憶はない。
亡き父と言ったが、実は死んでいるのか生きているのか分からない。
三か月前、父は神登山に行くと言って出て行ったきり、帰って来なくなったのだ。
父が出かけて一週間後、余りにも帰りが遅いことが心配になったアタシは、村の若者数人と共に、神登山に父を捜しに行き、そこで妖刃暴を発見したのだが、父の姿はなかった。
その日以降、未だに父は消息不明のままで、おそらく魔物に殺されたのだろうと思っているのだ。
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