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𓆟
ピカピカした袋から取り出したのは、少し大きいサイズの真っ白のセーラー服。
光沢のある深みのある赤いタイはハンガーに掛かっている制服をより一層輝かせる。
小学校を卒業して何となくこの日が来たけど、なんか普通だなあ。
そう思いながらも母と父と歩き始める。
いつも乗っていた電車も今日は「通学路」としてキラキラしている。
手鏡で何度も、変わらない前髪を整える。
スプレーで束に細かくまとまった髪には、いつになく気合が入っている。
電車に揺られて、景色を目で追う。
普段は分からないけれど、カップラーメンを待つ3分が長く感じるのが、今日はなんだかわかる気がする。
最寄りの駅に到着すると、いつもよりもつま先に力を入れて階段を踏みしめて登った。
髪が崩れないようにそっと、そっと。
一つにまとめた髪は最後の一段を登りきったところで左右に少し揺れる。
家を出る直前まで何処に入れるか悩んだ末決めた、ICカードの入った少し遠いポッケに手を伸ばす。
改札を通り抜けたら、父と母に顔を見合わせて道を確認させる。
結局母が地図を取り出す。
地図を見ながら歩く母を心配そうに見つめる父を、眺めて歩く。
天気が良くてよかったね、なんて話しながら少し長い通学路を踏みしめる。
しばらくして、信号を渡って角を曲がると、桜に囲まれた門が見える。
門の隣には誰が書いたのか分からない白い看板のようなものに「入学式」の文字。
「写真でも撮ろっか」
父が母に、最初に私の隣に並ぶように言う。
目を少し見開いて上の歯が見えるように微笑む。
「はい、チーズ」
よし、完璧。
父が母にカメラを渡し、私の隣に来る。
父は私の肩に手を回す。
顔を引きしめて、気合を入れる。
「はい、チーズ」
まあまあかな。
私はふわりと門を通った。
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