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「剣さん」
思いもよらぬ方向から名前を呼ばれて、振り返る。そこには白の半袖Tシャツで下はジャージ、大きなリュックを背負った白あんが立っていた。
「白あん……! あっ、白あんって言っちゃった」
俺達は同じ大学だとわかると、周囲への説明が面倒になりそうだからという理由で、名を改めることにした。
俺の本名は剣(つるぎ)。珍しい名字なのでいつも言及されるのが憂鬱だったが、白あんは『紺碧のほうがいいですね……』と呟いただけだった。
「大声で呼ばなければ、HNでもいいですよ。……どうしたんですか?」
「え?」
「今の子となにか……」
「なんだ、見てた? カフェ誘われた。駅の向こうに大きい公園があるって、知ってる?」
「はい、たまに部で走るルートに入ってますよ」
「そうなんだ、俺……。今度はうまくいくかもしれない」
「……あの子、好きなんですか?」
「結構好き。明るくてさ、いい感じかも。まだわかんないけど……」
「うまくいくといいですね」
「付き合ったらすぐ報告する」
「いらないです」
白あんは苦笑いしながら言った。
「初対面の日みたいに、八つ当たりされたらかなわないので、そういうのは特にいらないです。俺、余計なアドバイスするかもしれないですし」
そうだった。俺の恋愛を心配をしてきた白あんに、口出しするなと釘をさしたようなものだ。
「確かに……」
俺は息を吐いてから言う。
「俺の言ってること、矛盾してるな。悪い」
「いえ」
「はぁ……。ほんとは、もっとおまえとゲームして遊べると思ってたんだよな」
「残念でしたね」
「他人事みたいにいいやがって」
「他人事でしょう」
俺は白あんを見る。おもしろくない。
最近思うのは、俺も白あんに期待しすぎていたんだってことだ。
ゲームや、初対面での柔らかい印象が強すぎて、俺のことをなんでも受け入れてくれる、ひたすらに優しいやつだと思っていた。最近少し違うんだとわかってきたけれど、どうも最初のイメージが抜けない。
「俺は、白あんに構ってほしくて仕方ないし……、だからこんなことまで報告したくなるんだと思う。部活だから、仕方ないけどな」
「小学生ですか」
「え?」
「構って欲しいなんて」
「真実だよ、おまえと遊びたいもん」
「……泊まりにいきましょうか」
「来る……!? いいよ来て! いつにする?」
「明日は」
「明日の夜な! なんか食いたいもんある?」
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