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 白あんが泊まりに来ると決まった途端、俺の頭のなかはそれでいっぱいになっていた。何を食べようか。なにして遊ぼうか。こんなに気軽に泊まると言えるのも、家が近いせいだろう。  気になっていた子とのカフェデートは順調に終わった。俺は緊張していたけど、いい感じだったんじゃないかと思う。よく頑張った。  金曜の夜、白あんは部活を終えたあと俺の部屋にやってきた。賃貸アパートの一室は、体格のいい白あんが入ってくると、一回り小さく感じられる。 「お邪魔します」  そう頭を下げながら室内へ入り、スニーカーを脱ぎ踏み出そうとした白あんを、俺はその場で押し止めた。 「なんですか」 「おまえ、なんか……っていうか、かなり汗臭いんだけど……」  白あんはTシャツの襟口を引っ張って嗅ぐ。 「稽古のあとシャワー浴びてきました」 「そのあとなんかした?」 「色々手伝いとか、しました。運ぶものがあったんで」  俺は白あんからリュックと手提げ荷物を受け取ると、その体を浴室へと押しやる。 「もう一回浴びて」 「そんなに気になりますか?」 「気になる」  やれやれ、とでも言うような顔をした白あんは、その場でTシャツを脱ぎはじめた。  均整のとれた筋肉質な身体が急に目の前に現れて、俺はつい眺めてしまう。胸筋、腹筋、肩。腰回り。 「何見てるんですか」 「ああ、うん……。格好いいな、白あんの身体」  白あんはそれについては何も言わない。 「同じTシャツ着たらまた臭いと思うので、何か貸してください」 「うん! 今出すから!先入ってて」  裸を見たせいか急に変な考えが浮かんだ。白あんは、女子とセックスしたことがある……。あの身体で。  受験の頃に付き合っていた彼女とは、進学と引越しをきっかけに別れてしまったらしい。白あんは、彼女にはどんなふうに接するんだろう。裏表がある感じはしないから、いつもと同じ調子だろうか。  白あんがシャワーを浴びているうちに、俺は夕飯の用意をした。今日はチャーハンと中華風のスープを作ってあった。白あんは、そんなにちゃんと用意しなくていいです、と言っていたけれど、せっかく泊まるんだから饗したいと俺は思ってしまう。たくさん作って冷凍しておけば何日も持つし、俺にも利はある。  白あんがシャワーから出てくると、俺は笑った。TシャツはXLがあったからよかったが、下のスウェットは足首が思い切り見えている。尻の形もくっきりとわかった。あんまりなので、別のハーフパンツを探して貸した。丈が腿上になっていたけど、こっちのほうがまだマシだった。 「身長、白あんのほうが5センチ高いだけなのに、こんな違うんだなぁ……。筋肉ってすごいな。体重何キロ?」  そう言ってつい白あんのたくましい肩をバシバシと触ってしまう。 「あと、まだ臭い……。もしかしておまえじゃなくて、このリュックが臭うんじゃないかと思うんだけど……」  部屋の隅においてあったリュックを玄関脇に移動させ、気休め程度に消臭スプレーをかける。廊下への戸を締め切ると、ようやく落ち着いた。 「やっぱ自分ではわかんなくなるもんですね、匂い」 「大学では気になったこと無いけどな。室内で空間が狭いからだよ。帰ったらリュック洗えよ」 「はい、そうします」
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