【試し読み】省エネでいきたい

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 どうやっても馬が合わない人はいるもので、ああいえばこういう、とりあえず私の意見を却下する事に全力を注ぐ人がいた。じゃああなたの意見通りにするのでと言う態度をとると、それはそれで気に入らないらしくまた怒られる。いちいち聞くな、そのぐらい判断できないのか。なぜ勝手に判断した、指示を仰ぐものだ。ヘラヘラしてわかっているのか。いつまで悩んでいるのだ、さっさと聞いたら良いだろう時間の無駄だ。いきなり聞かず調べてから聞きに来てくれ、あなたのために最初から説明する時間はない。私は何重にも道を塞がれてしまったが、嫌われている理由を考えるのも面倒だった。いちいち戦うのが面倒なのだ。もめごとをしている時間があれば他の事をしたい。  なぜそこまで相手は私に対して怒る事が出来るのか。本人いわく、「岸本だけに怒っているのではない。お前たちも他人事ではない。気を引き締めろ」と周りの人に知らせるため、きつく当たっているらしかった。意味が分からずキョトンとしたら律儀に二回説明された。これを私に対面で言う勇気。もっともらしい口調だが「公式にいたぶる相手」と言われただけである。しかも周りの人にも絶対伝わってない。いたぶられ損。この人はいつか私に手をあげるのではないだろうかと思い、少し対策を考える事にした。やられる前にやれ。  カッとなって刺す計画。毎日のように怒られているので今更カッとなるポイントが探しにくい。夜道に後ろから刺すか? わざわざ夜道に後をつけて後ろから刺すなんて準備も後片付けも面倒だなあ、と気持ちが萎えた。普段の仕事をしながら計画を立てるのが面倒だった。嫌いなやつのために時間を使いたくない。訴えてみる計画。怪文でも送ってみるか? 事情を説明するのも面倒なら、長期戦になるのが面倒だなあ、と気持ちが萎えた。「明日辞めます」の方がいい。なぜ離婚を切り出そうとしている人のように私が色々考えなければならないのか。とても腹立たしい。自殺する計画。場所は職場か、この人の家の前だなと考えた時点で「家の前で死ぬなら、なぜ私が死ななければならないのだ」という疑問が出てくる。自分で死ぬのはダメだ。来週のアニメを見るまでは死ねない。  どうやっても面倒くさい。どうしてもそこに行きついてしまう。自分が危害を加えられるかもしれない妄想が膨らむので、日に日に卑屈になっていき「これはいけないな」と思いA4の紙にペンで死ね、死ね、死ねと書いてみた。最初は字が躍っていたのだが終盤になると写経をしているような気持ちで綺麗に「死ね」と書けた。とても満足した、文字の力はすごいぞと意気揚々と友人に報告したら『めるが書くべきものは呪いの言葉ではなく退職願だ』ともっともな事を言われた。 (続きは『もめごと』にて掲載。全体1900文字)
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