第7話 これからの話

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桃子は一瞬、何が起こったのか分からなかった。 ようやく理解出来たのは、もう一度律斗の唇が自身の唇と重ってからだった。 目蓋を閉じる暇もなかった一回目のキス。 二回目のキスは、桃子が自覚するには十分な時間をかけられたのだった。 「さすがに、分かっただろ?」 そっと唇を離してから、律斗が珍しく照れた様子で言った。 驚きと、キスの余韻にうっとりとしてしまっていた桃子は、イカ焼きが地面に落ちた事にも気付けず、「うん」と小さく頷くのがやっとだった。 「ほら、とりあえず行くぞ。このまま家に帰るならそれでもいいし、どこかに行きたいなら付き合うし」 キスをした事実などおくびにも出さず、律斗は落ちたイカ焼きをテキパキと片付けながら言った。呆然としていた桃子は、ようやく息が出来た気分で律斗を見やった。 「りっちゃん、これは、あの、何かの間違い、ではないよね?」 律斗は、はぁ?と顔を歪めたが、桃子はそれすら納得出来ない気分で言い募った。 「だって、りっちゃん、私の事女の子として見れないのに。離れるなって言うのも、守りたいって言ってくれるのも、私を家族みたいに想ってくれてるからで…。だから…__」 律斗は歪めていた表情をおさめると、白々しく小首を傾げた。 「もう一回してみる?」 「え…」 固まる桃子に、律斗はふっ、と笑うと、グリグリと桃子の頭を乱暴に撫で、子供に言い聞かせるように言った。 「いきなり信じろって言うのも難しいよな。ま、ゆっくり行こう」 「ゆ、ゆっくり…?」 「そう、ゆっくり。焦らなくても、時間はあるんだし。桃子がちゃんと納得出来るように、俺も頑張るから」 「納得…」 「とりあえず、今日はデートだって事を意識してくれたら、それでいいよ」 律斗は軽やかに立ち上がると、「行くぞ」といつもの調子で桃子を促した。 桃子はよろよろとベンチから立ち上がる。 自分が大きな間違いを犯してしまった事に気付き、目の前が真っ暗になった気がした。 (わ、私、いま、ぜったいに、間違えた…) スタスタと前を歩く律斗の背中を眺めながら。 桃子は己の失言に、キスの余韻さえ忘れて、心の底から後悔したのだった。 ◇ ◇ ◇
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