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「時間がないのでソックスの上からテーピングしますね」
シューズを脱いだ先輩の足にテーピングを素早く巻きつける。
徐々に迫る試合開始時間を前に、部員たちにいつも通りの調子で戸前さんが声を掛けているのが聞こえた。
ああ、自分が真面目で良かった。
本を読んで、練習して、戸前さんのようにはいかなくても私も少しは役に立てる。
「マジでテーピング、上手くなってるじゃん」
完成する直前に先輩が言った。
私は終わりのテープを千切り、テープの端をしっかりと留めて「練習ましたから」と先輩を見上げた。
「紗々羅はすごいな。本当にありがとな」
先輩がいつものように私の頭に手を伸ばした。
しかし……
その手は私の頭に触れることはなかった。
「…悪い。これ昔からのクセみたいだな。だけど、ちょっとは…自制しないとな。アイツに悪いし」
先輩は宙に浮いた手を引っ込めて言うと、「んじゃ、やるか」と立ち上がった。
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