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「…照れてねえし」
ぼそりと言った俊太の言葉は空気の読めないもう一人によって掻き消された。
「それより、おばさん、俊太君にビックリしちゃった。急に背が伸びたんじゃない? もうおばさんも追い抜かれちゃった。ついこの間まで紗々羅と同じくらいだったのに。俊太君、急に男らしくなったわよね、ねえ、紗々羅」
そして、急に私を巻き込む。
あれほど言ったのに、本当に人の話を聞いていない。
「…そうかもね」
私は早くこの場を切り上げたくて、この日を祝福する快晴の空からも目を背け、地面を見ながら呟くように適当に返事をした。
「まーた、照れて。そう思うならもっとはっきり言えばいいのに」
私は奥歯を噛みながら母を睨みつけた。
しかし、私の睨みなど母にとってはもはや空気。
「紗々羅ったらね、家でも変なこと言ってたのよ。俊太君のこと妙に意識しちゃって」
「お母さん!」
私の声に驚いて、舞い降りてきた桜の花びらも飛び跳ねたように急に舞い上がった。
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