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シャッターが切られた瞬間、二人の向かいから桜の花びらが風に乗って舞ってきた。
それが私の頭上を飛び越えていったかと思うと、俊太が私の頭に手を伸ばした。
そして、頭頂部から花びらを摘まみ取って、私に見せた。
「ありがとう…」
俊太が指から花びらを離すと、花びらは再び緩やかな風にのって私たちより一足先に正門をくぐって空に舞った。
私の頭頂部まで軽く目が届いてしまう俊太に、私は改めて身長の差を実感した。
俊太も同じことを思ったのか、私のことを見下ろして私に向かって「身長、縮んだ?」などと言っている。
「そっちが伸びたんだよ……」
俊太のことはしばらくの間遠くから見るばかりで隣に並ぶまでこんなに身長差が広がっていたなんて知らなかった。
俊太が触れた前髪を直そうとして目に入った自分の腕時計の文字盤を見てハッとした。
「もうこんな時間……!?」
慌てる私をよそに俊太は時間を確認しながらも余裕の表情を見せている。
「十分前には席に着かなきゃ」
「真面目かよ」
俊太にツッコミを入れられて思わず小さく睨み返す。
「…知ってるでしょ?」
すると俊太は私からの嫌味だと気付いたのかそうでないのか、意味深な含み笑いを見せた。
その笑顔……どういう意味!?
しかし、それがどういう意味であれ、俊太と二人揃って遅刻などということはあってはならない。
私は後ろの母たちを促しながら早足で正門をくぐり抜けた。
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