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学校から帰って来た僕は母のただならぬ雰囲気に息をのんだ。
真っ青な顔。眼孔鋭く、怒りや哀しみを全身に溢れ出させた母の姿。
そのあまりの変貌振りに僕は、その場に凍りつき言葉を無くす。―――そして僕の脳裏に【鬼】の文字が浮かんだ。
目の奥に潜む。恐ろしく荒々しい黒々と光る何かを見てしまったからだ。
当日、僕は14歳。
そう·····子供だった。
母は、いつも優しく美しい人だった。
それなのに何が母を鬼に変えてしまったのだろう?本当に鬼が存在しているなんて、信じてはない。人間の弱気心が作り出した虚像だと頭では分かっていた。でも人は、時に心に鬼を宿すもなのだと、祖母が話してくれた、お伽話を思い出し、その時の僕は半ば強引に、そうであってほしいと望んでいた。
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