俺だけのラブストーリー

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斜め前を歩く千帆をそっと眺めながら、俺はふっと息を漏らした。と、その瞬間千帆に俺の視線に気づいたかのようにくるっと振り向かれ、俺は不意を突かれて言葉を失う。 「なに?犬がお餅詰まらせたみたいな顔してさ!」 千帆が俺をからかうように笑い声を上げて、俺はようやく我に返った。 「それを言うなら鳩が豆鉄砲を食ったような顔、だろ・・・」 いつもならふざけて言い返すところを、声がかすれて黙り込んだ。 千帆がびっくりしたように 「え、智也!大丈夫!?具合悪いの!?」 と駆け寄ってくる。 「いや、そういうわけじゃ」 千帆が心配そうに俺を見る。 情けなさで胸がいっぱいになり、俺は 「大丈夫だから」 と呟いた。 「え?」 千帆の困惑した声が聞こえたけど、これ以上顔を見られたくなくて、俺は早足に千帆を追い抜いた。 さっき下駄箱で見た光景が、千帆の表情が、頭から離れない。どうして?頭では分かっていたはずだ。なのにどうしてもっと早く、言えなかったんだろう。ドサッと自分の部屋のベットに身を投げる。 部活終わり。俺は汗びっしょりの状態で更衣室に向かった。 「あ、千帆」 更衣室に入る寸前で、何か緊張した面持ちの千帆が、廊下を歩いていた。引き止めようかとも思ったが、急いで着替えて行ったほうが早いと判断した。部活のユニフォームから、からりと乾いた制服のシャツに着替えて、俺は下駄箱に急いだ。 体操服やシューズ、鞄・・・。大量の荷物に苦戦しながらも、智也は走って下駄箱へ飛び込んだ。 「ちーほ!」 と下駄箱の陰に見えた千帆に声をかけようとした、その時。見覚えのある顔が見えて、俺はどきっとして立ち止まった。咄嗟に靴箱の陰に身を隠す。あれは、ついさっきまで一緒にいた・・・!ゆっくりと千帆を下駄箱からのぞくと、千帆が困ったような顔をして、鞄の取っ手を握りしめていた。その真正面にいるのは、俺と同じバスケ部の・・・大輝先輩だ。俺は息をのんだ。まだそうと決まったわけじゃないのに、嫌な予感だけが頭をぐるぐると駆け巡り、俺は気づけばギュッと両手を握りしめていた。大輝先輩が千帆に、 「ずっと好きだった。」 と口にしたとき、俺は、ほらやっぱり!と叫びそうになった。驚きと不安と戸惑いと、複雑な心情で胸が張り裂けそうになるのを必死でこらえ、耳を澄ませる。 「付き合ってほしい」 「ちょっと、考えさせてください」 千帆は目を伏せてそういっただけで、先輩に頭を下げ出て行った。 母さんの声ではっと起き上がった。知らない間に寝てしまっていたみたいだ。
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