3.杉(28歳 会社員)

12/13
前へ
/36ページ
次へ
 傷つけてしまったのかもしれないと、不安になってきた頃。  遥香さんが口を開いた。 「いつから」 「ふえ?」 「出張よ!」 「あ、週明け……」 「すぐだね」 そして、遥香さんは一人で考え込むように俯いた。 「……分かった。引き受ける」 次に顔を上げた時、きっぱりとそう言って、俺の方が驚いてしまった。 「え」 「ここのことは、よく見てる。心配しないで。  できるだけそっちに連絡入れるわ」 「あ、ありがとう」  遥香さんは、さっぱりした笑顔をこちらに向けて、「じゃね」と台所を出ていった。  なんだか猛烈にほっとしていた。  立ち上がって空き缶を水で洗ってからつぶす。  そんな自分に苦笑した。  苦笑しながら切り替えようと思った。  ここからは、きちんと会社員としての役割を果たすのだ。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加