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出張に出かける日、
みんな新しい庭で、十分に距離を取って見送ってくれた。
「気を付けて」「行ってらっしゃい」と声をかけてくれたのに応えながら、
ふと思いつく。
「壮史!」
俺のでかい声に、壮史が「えっ、何?」と驚いている。
「夜、壮史の歌が聞けないのが淋しいから。あれ、動画にしてどっかに投稿してくれんか。全国どこでも見られるように!」
「なっ、杉さん!!」
泡を食ったようにオロオロしている壮史に司が、
「あれやっぱ壮史なん? やっべえ、俺も全部きちんと聞きてえ!」
と叫んだ。
「まさか、あの夜中のやつ? あれCDじゃないの?」
「壮史君ミュージシャンだったんだ!!」
遥香さんと志摩さんも、それぞれ離れた場所で、きゃあっと声を上げている。
「え、いっいや、そんな。俺……! もー!杉さん!!」
壮史の慌てた声をバックに、「行ってくるなー」と出来るだけ呑気な声を出した。
俺は、役割を果たすのが好きだ。
なぜならそれは全部自分が選んだ役割だから。
ドマーニのみんなに依存しているのは俺の方だ。それでも。
何かできることがあるなら。
喜んで、何でもしてやろうと思うのだ。
(続く)
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