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「それは、ストレスではないかい?」
「そ、そうなのかな」
鼻をずびずびさせながら、私はこの家で一番の年長者である杉君に相談した。ビデオ通話である。
「大丈夫なように見える人が、本当に大丈夫だとは限らない」
と杉君は言う。
「志摩さんは、地元から離れて一人でここにきているのだし、まだ学生だし。不安を感じているはずなのに、料理をみんなにふるまっていたり、掃除もできない人の代わりに時々余計にしているでしょう。適応しすぎていると思っていた」
「いや、でもそれは」
好きでやっていたのだ。なんならちょっと楽しかったし。
不謹慎だけどこの非日常をちょっと楽しんでいた部分が全くないとは言えない。
「楽しかったらストレスがないというのも、一概には言えんと俺は思うけどね」
杉君は画面の向こうで、右眉をあげる。画像がカクカクと不自然に揺れた。
杉君自慢のワガママボディが妙な曲線で揺らぎ、またはっきりとした画像に戻る。
「庭、ねえ……」
これまたマニアックだねぇと、こまったような声だ。
「誰かそういう写真集でも持っとらんかねぇ」
「写真じゃちょっと……」
とにかく庭を歩きたい。そこで揺れる空気を感じたいのだ。自分がなぜそれにこんなに固執しているか分からない。
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