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彼女についてしばらく歩くと、大輪の向日葵が咲き誇る、向日葵畑にたどり着いた。
夏休みと重なっていたこともあり、家族連れや学生のカップルも多い。
あたりは一面眩いほどの黄色。
僕達の関係を見透かされているような気持ちに少しだけなる。
「……綺麗ね」
「うん」
「この大輪の向日葵……私みたい」
「えっ?」
最後の方が小さくて聞き取れなかった。
思わず聞き返すが、ゆっくりと首を振られる。
「ううん、何でもないの」
そう言うと彼女は奥の方へと行ってしまった。
《私みたい》って言ってたんだよな……?
僕は思考をめぐらせた。
彼女はいつも気持ちを伝える時、直接的な言葉で伝えるのではなく、少し言い回しを変える。
そういえば、僕達が付き合ったきっかけも、彼女からだったな。
仕事と家庭とが上手くいかなかったあの頃、僕は彼女に相談の電話をよくかけていた。
そんなある日の晩のこと。
「ねえ、空を見て」
彼女がいきなり話題を変えた。
「え、空?」
「月が、綺麗ですね」
そう言うとガチャりと電話が切れる。
初めは、確かに綺麗だ、それを伝えたかったのかな? としか思わなかった。
しかし後になってこの言葉の知り、僕達は付き合うことになったのだった。
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