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居候編 前編
(帰りたい……)
「pi v fpi ktupi dipi v opi ktipi v tp?」
ライラは広いディナーテーブルの目の前に用意された、肉の脂でギラつくスープ皿を眺めて小さくため息をついた
「p fiufp oftepi vitp ftfkp uouipi」
先程から何か話しかけられているが、返事をするのが億劫で口を噤んでいる
テーブルの角を挟んだ斜め向かい側に座しているのは、黒煙のように輪郭はぼやけているが影を人の形にしたような化け物だった
食事を運んでくるのも別の黒い影の執事
身の回りの世話をする黒い影のメイド
〈帰りたいわ……〉
ライラは影の人々が住む世界に迷い込んだ異世界人だった
鬱屈した重苦しい気分のまま、心の声を零す
「pi lkpi kuipi kokp fteep iei……?」
すると主人の問いかけのような響きの声がした
思わず吐き出した言葉を拾われたのかと思って、ライラははっと顔を上げて否定しようとした
〈なんでもな、……っ!〉
しかし―― 主人の顔を直視した瞬間、そのあまりの恐怖に体から血が引くようにすっと冷たくなるような戦慄が走り、言葉を詰まらせた
影の人の顔は形容しがたいほどとても恐ろしかった
まるで闇を覗き込んで漆黒に飲まれてしまいそうな底なしの感覚を覚え、ただ見つめているだけで体が恐怖に支配される
目や口などといった顔のパーツは窪んだ穴のようで、なんとなく表情を捉えることができるが、その表情はけして馴染みある人間のものとは程遠い
(また怒ってる……っ 怖い)
怖いのは化け物の顔であるのはもちろんのこと、その表情が震え上がるほど怒りに満ちているからだった
黒い窪みの眼窩はつり上がっており、口は引き裂かれたようにギザギザとして、鋭い牙のようだった
(ごめんなさい……)
お世話になっているのに、私は何をしても怒らせてしまうみたい
返事をしなかったのが悪いの?
鬼のような形相を目の前に、ライラのスープを運ぶスプーンの動きは完全に止まっていた
「pi v pi ktupi koupi v opi ko p- odipi da。……p fitip fifupi vkvpi kbpi v upi v v」
影の主人は何事か言いながら嘆息して自分の持っていた食べかけのパンを皿に置いた
ライラがうつむきびくびくしながら、薄目でその様子を伺っていると、
主人は傍に控えていた執事らしき影の化け物に何か話しかけ、そのまま席を立って食堂を出ていってしまった
「pi vivpi ktkpi ktkpi koupi……」
執事はぼそりと、嘆きのつぶやきを漏らしていた
(……私のせいだって言ってるんでしょ。わかってる)
ライラは気づけば泣いていた
ぐしぐしと鼻を啜りながら、スープを再び口に運んだ
食べる気分はすっかり失せたが、出されたものを残す事はただの居候としてはできるはずもなかった
これ嫌い……。お腹が痛くなったり緩くなるから
執事はライラの様子を見ながらまたぽつりと何か零していたが、ライラはもう気にする気力もなかった
帰りたいなぁ
帰りたいよ
ごめんなさい、私がいてごめんなさい
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