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(死んでいるなよ。面倒だから)
自分の領地で死体など見たくもないし処理したくもない
「なあ、大丈夫か? 」
声を掛けるが返事もなくやはり動く気配もない
警戒を解かずにその人の傍らに膝をついた
太陽を思わせるゴールドブラウンの艶のある長い髪
異邦の国を思わせる大きめで少しくたびれた薄茶色の服
顔は雪に埋もれているのと長い髪のせいで見えず、華奢な背格好から男女の区別はつかない
手を伸ばし小さな人の顔にかかっていた髪をそっと払い、指先で邪魔な雪を掻いて退け、口元に手をやろうとして言葉を失った
(美しい……)
恍惚として息をついた
覗き込んだかんばせは、まさに小さな天使だった
整った可憐な顔は、崇高さと清楚さを併せ持ち、触れれば危うい様な儚さを醸し出している
長いまつ毛に縁取られた目は閉じられ、苦しげに眉を寄せており、透き通るような白色の柔らかそうな肌は寒さからかやや青ざめていた
一瞬にして目に入った小さな人の可憐で蠱惑的な容姿にサフィールは思わず唾を飲んだ
〈ん……edpikpif……〉
気を失っているらしいその人はサフィールにはわからない言葉で吐息まじりのうわ言を漏らした
まだ幼さの残る声色だ
しかしその小さな声はサフィールの胸にとてつもなく甘美な痺れをもたらした
(ほうけている場合ではない。とにかく早く中へ)
サフィールは壊れてしまいそうなほど華奢なその人を慎重に抱き上げた
(女の子だ)
痩せてはいるが女性らしい曲線や柔らかい感触がある
大事に抱えながらサフィールは屋敷へと戻った
**********
屋敷へ入ると執事がタオルを持って待っていた
優秀な執事は窓から主人の様子を見ていたのだろう
サフィールは一番広い客間を開けるように命じ、彼女を運び込んだ
彼女を寝かせたベッドの端に座り一息つく
(気を失っているだけのように見えるが……)
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