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そのまた或る日、カインはコインが高級料理をご馳走してくれるというので友達で貧乏画家のコカインの絵をあわよくばコインに買ってもらおうとコインの豪邸へ持って行き、まずは豪華絢爛なダイニングでコインと食事することになりました。
「どうだ。家の料理は美味いだろう。」とコインが自慢げに言うと、カインは自嘲気味に言いました。
「僕は絵の良し悪しは一応分かる積もりでいますが、高級料理の味の良し悪しとなるとさっぱり分かりません。ですから一般料理との区別がつきません。」
「僕は高級料理の味の良さがよく分かる。それに一般料理の味の悪さもよく分かる。そのように物事の価値が分かるから金持ちになれたのだよ。」とコインがどや顔で言うと、カインは物は試しに言いました。
「そうでございましょう。そこで物は相談なんですが、僕の友達の画家の絵を買ってくれませんか。御覧になれば、きっと価値がお分かりになるでしょうから所有なさりたいと思われるに違いございません。」
「そうか。君の友達は金持ちなんだね。」
「えっ、何故そのようなことを仰るのでございますか?」
「だって価値ある絵が描けるなら金持ちになれるじゃないか。」
「しかしながら価値が分かる者に巡り会えなくて買ってもらえませんから貧乏なんです。」
「そんな訳があるか。価値のない絵しか描けないから貧乏なんだろ。」
「そのような訳では決してございません。ですからどうか絵を御覧になってください。」とカインは言うと、包みを解いてキャンバスを取り上げてテーブルの上に置きました。
するとコインは馬鹿にして言いました。
「駄目だね。こんな絵は。」
「いや、そう仰らずによく御覧になってください。」
「よく見たよ。でも駄目なもんは駄目だ。」
「ああ、そうですか。」とカインが忿怒と軽蔑の顔色を露呈して言うと、コインはカインの平らげた皿を指さして言いました。
「不満なら、その皿をあげるよ。」
「えっ、これをですか?」
「ああ、それを売れば、結構な金になるぜ。」
コインは自分の所有物だから価値があると単にそう思って言った次第です。
カインもコインの所有物ならと思い、食事後、コカインの絵と一緒に皿を持ち帰ることにしました。
結局、カインは仕方なくコカインの絵を少額で買い取ってやり、皿を売るべく質屋に持って行って鑑定してもらったところ、これは物凄い代物だ!先祖代々受け継がれた由緒ある良家の品だ!と言われ、どこで手に入れた?と聞かれ、コイン様に賜ったと答えると、道理で凄いはずだと言われ、破格の値で買い取ってもらいました。
で、そうか、コインは良家中の良家の御曹司であって親の七光りで金持ちでいられるだけの話で価値が分かるから金持ちになった訳じゃないんだとカインは悟り、結構な金持ちになりました。
剰えカインはコカインの絵が出来上がり次第、随時、自分のギャラリーに展示し、複数出来上がった所で展覧会を開催し、またコカインが発表会に恵まれるようにプロモートしようとコカインの絵を持ち出して美術館やキュレーターに紹介して回り、買ってくれそうな顧客も回り、またアートフェアに赴いてコカインの絵をブースに展示して売り込み、そうしてコカインの為に奔走した努力が実を結び、コカインの大規模な国際的展覧会を開催するに至ってコカインが大家に成り上がったのでコカインの絵をオークションに出品したところ、これまた破格の値で売れることになって可成りの金持ちになりました。
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