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そのまた或る日、カインはコカインの展覧会にコインを招待しました。
「おう、賑わってるねえ。」とコインが言うと、カインは言いました。
「お陰様で。殊にあそこが賑わっております!」
コインはカインの指差す方を見てどんな絵だろうと興味がわいて来て人が集まって感嘆の声をあげているところへカインと共に向かいました。
「こ、この絵は!」
コインが驚くのも無理はありませんでした。それは嘗てカインに買ってくれませんかと頼まれて駄目出しして断ったコカインの処女作だったのです。
「この絵はデビュー作なんですが、才気煥発たる傑作でありまして高名な美術評論家のお眼鏡に適いまして今やとても価値があるのでございます!」とカインがシニカルに言うと、コインは動揺しながら言いました。
「あ、あの時、僕は酒が入っていてよく分からなかったんだ。」
「そうでございましょう。でなければ、お目の高いコイン様が触手を伸ばさないはずがございません。」
「そ、そうだ。全くあの時、僕は酔っていてどうにも正しい鑑定が出来ない状況にあったのだ。はあ・・・」とコインが辟易して溜息をついたところでカインは言いました。
「今日、コイン様にお越しいただいたのは他でもありません。コカインにお会いしていただくためでございます。」
「お、おう、そうか。」とコインは猶も動揺を隠せず言うと、「どうぞこちらへ。」とカインに誘われコカインの所へ導かれました。
コカインは自分の最新作の絵の前で立っていました。
「おい、コカイン!コイン様がいらしたよ!」とカインに言われたコカインが、「お初にお目にかかります。私がコカインと申す者でございます。」と丁寧にあいさつしたのとは裏腹に軽蔑のまなこを向けると、コインは端から嫌な気がして言いました。
「あ、ああ、君がコカインかね。君の絵の評判はかねがね聞いてるよ。大したものだねえ。」
「お褒めいただき光栄に存じます。私はコイン様の確かな眼力のお噂をかねがね伺っております。つきましてはコイン様、この絵なぞはいかがでございましょう?」
コカインの最新作の絵を見てコインは通ぶって、「おう、これは正に知る人ぞ知る逸品絵画であるな。」と言うと、「これは今日初めて展示した絵でございます。」とコカインが嘲笑しながら言いました。
ですからコインは顔から火が出る思いがして、「あ、ああ、アハハ!そうか、アハハ!いやはや、アハハ!」と笑って誤魔化すしかありませんでした。
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