政略結婚します

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政略結婚します

ソフィアが隣国のアルノルド王国に嫁ぐことが決まった際、2人の姉も、いつもソフィアの世話をしてくれている女中のアンナも、学友のベルモンド男爵令嬢もこぞってこう言った。 「あんな山だらけの何もない国にお嫁に行くの? ソフィア、可哀想」 アルノルドはソフィアの生国レイモンド王国の背後に位置する 小さな山間の国。肥沃な大地が国の面積の大半であり、前面には海が広がるレイモンドと比べると、確かにアルノルドは、山間の土地で、作物が育ちにくく、資源と言えば、鉱山からの鉱物に頼っている状態だ。 国としての豊かさも、格も明らかに低い。にも拘わらず、ソフィアの父レイノルズが娘を送り込んだのは、互いに不可侵条約を結んだ証としての意味合いが強い。 言ってしまえば人質だ。 それでもソフィアは、この婚姻に否は言わなかった。 婚約の記念に贈られてきたダイヤモンドのついた指輪は、父が街の宝石商に設えさせ、母が身に着けているものよりも、大きく立派なものであったし、やりとりしていた手紙の中でも、セオドアの誠実で真面目そうな人柄は滲み出ていたからだ。 ――セオドア様はどんな方なのかしら。 まだ見ぬ未来の夫への空想を膨らませながら、ソフィアは婚姻の日を待った。
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