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なんて残酷な花でしょう。
小さく可憐な花々を見つめ、顔をしかめる。
鮮やかに浮かび上がる青紫色のそれらを踏みしめて、こんなものなくなってしまえばいいと呟く。
はやく。早く消してしまわなければ。
そうじゃないと、いそがないと、
「相変わらずきれいだなぁ。」
ほわほわとした愛おしいあの人の声がして、ハッと顔を上げる。
「おまえ、この花好きだったもんな。」
言いながら私の前に座り込んだ彼。
「心配しなくたって、俺はお前を忘れたりしないのに。」
そう言って彼は私の足の下で咲き誇る花を優しくなでる。
「もういい!!」
優しく微笑む彼に耐え切れなくなって、私は再度その花を踏みつけた。
「もういいよ!ちがう!わたし、こんなつもりじゃ。違うんだよ!」
何度も何度も足を振り下ろして訴えかけても、彼にはもう届かない。
「ねぇ!もうこんなとこ来なくていい!話しかけになんて来なくていいよ!!」
最初は嬉しかった。
毎日欠かさず訪れてくれる彼に、私たちの愛は本物なんだと心が躍った。
でも、
「ねえ、ほんとうに、もういいの。お願いだから。」
ここに足を運ぶたび、私に優しく微笑み語りかけていく度に彼は徐々にやつれていった。
頬は痩せこけ、目はくぼんで、あんなに頼もしかったがっしりとした体も今ではフラフラと頼りない。
「このままじゃ、あなたまで。」
震える両手を彼の頬に伸ばした。
暗く、光をなくしたような瞳に心臓を握りつぶされたかのように息苦しくなる。
「ねえ、おねがい。おねがいよ。あなたが完全に壊れてしまうその前に。どうか、」
頬を伝い落ちる雫が、
青々と咲き誇る花々に降り注ぐ。
どうか。
《わたしを、忘れないで。》
わたしを、忘れて。
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