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「転校生? 随分中途半端な時期に来るねぇ」
既に5月も中程。中途半端で微妙ないま、どうして来るのだろう。そもそも東雲に転校生が来るなんて殆ど見ない事例だ。親の都合で海外に行っていたとしても、寮付きなのだから入学式に合わせるだろう。余程の何かがない限り。
だがそれよりも、気になったことがある。
「その子の情報、全く知らないんだけど」
生徒会は学園内のあらゆる情報が集まってくる。転校する手続きの上で事務作業が回ってこないはずがない。仮に仕事がなかったとしても報告なり何なり見聞きするはずだ。
「理事長の独断により秘密裏進められたので、転校生が来るというのを知っている生徒は私と千歳だけです」
「横暴な」
「手続きも全て理事長自らが行ったそうですよ」
「嘘でしょ。あの理事長がたかが手続き如きの為に? その子、何者……?」
「それが理事長の甥御さんのようで」
「甥……他に言ってたことはあった?」
「彼の素性はほぼ分かりません。きっと書類関係なんかも回ってくることはないでしょう」
あの理事長のことだから質問したところではぐらかされるだろう。会えばいつもにこやかな彼は底が見えない。
だからこそというか、理事長が態々隠れるような真似をした真意が分からないのは心配になる。表立たせても、文句を言わせない男が内密に進めた理由とは。
「しかも、甥っ子だと言ってどうするの」
目にかけている。大事にしている。
そういう意図を伝えたいのだろうか。理事長の甥を、無粋に扱うなと。例え、どんな奴だったとしても。
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