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「危なそうだったらちゃんと距離を保ってね。スマホも手元に持っておいてよ」
「ふふ、相手は人間ですよ」
誰よりも分かっていてその科白を吐く。確かに理事長というワードに警戒し過ぎているかもしれないけれど。
「何かあれば殴って逃げますし」
「人を殴ったことは?」
「ないですね」
「だよね」
普通の子が来て欲しいという希望的観測は役に立たないだろうね。少なくとも頭がまっピンクで、宇宙語を話す。多分。
「他所にはバラさないでくださいね。千歳は信頼出来るから、話してしまったのですが」
「わぁ、伊織ちゃんたら大胆」
「バレなきゃいいんですよ」
「背中を預ける仲かな」
「同じところまで堕とした、という方がしっくりきますね」
多かれ少なかれ、問題はあるだろう。別に命に関わる事態ではないけれど。その子が七三眼鏡の優等生であることを願う。少なくとも理事長に似ても似つかぬ子がいい。
「ほら、もしかしたら私が一目惚れするかもしれませんよ」
「ええッ」
「それ程魅力的な存在かもしれません。やんちゃな方の可能性もあります。今日は取りあえず寝ましょう。考えても答えは出ません」
冗談がキツい。伊織ちゃんが誰かに懸想する様子を想像しようとしたが無理だった。
「眠くて割とヤケになってるでしょ」
「ふふ、そう言うことにしておいてあげましょう」
そう言うと伊織ちゃんが近づいて、額を寄せてきた。グッと近づくお互いの顔。濃紺の瞳がいたずらげに微笑む。顔圧の強さに負けそうになったが、もう、と肩を押すとあっさり離れた。だからどうして謎の、茶目っ気? を出してくんの。
「おれは寝る」
「そうですか。おやすみなさい、千歳」
「おやすみ伊織ちゃん」
とりとめのない不安は背後を渦巻いている。考えても答えは出ない。だからといって諦めていいのだろうか。
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