ep.1

4/14
1155人が本棚に入れています
本棚に追加
/113ページ
 何事もなかったかの如くアームチェアに腰掛け、優雅にコーヒーを味わう姿は確かに様になっている。  成績優秀、文武両道。家柄もよく稀有(けう)なカリスマ性を持った彼は正しく勝ち組。  ただ性格は先程ので分かる通りの俺様で、座右の銘に天上天下唯我独尊が似合う男。顔に釣られて交際すれば泣きをみるタイプだ。  だがしかし、人気は高い。  学園には親衛隊──ファンクラブを上位互換したような組織──が存在するのだが中でもかいちょの規模は最大級。 一説によれば目が合うと惚れる(笑)らしい。だったらおれはかいちょに毎日秋波を送っているし、なんなら狂愛の域に達している。  考えただけで鳥肌が立ったので真相は解明されていないけれど。 「─……おい、伊織が先に行ってるってよ」 「うわ、俺様野郎」  精悍なお顔が間近にあったせいでうっかり本音が漏れてしまった。さっきといい、かいちょとまともな会話の切り口が掴めていない。 「相変わらずかわいくねぇな」 「ああ、生きる理不尽の権化ことタチランキング1位のかいちょだったね」 「何だ、抱かれたかったのか。明後日の夜なら空いているぞ?」 「妙にリアルだね~」  今日は埋まってるのかね。 切り口だけじゃなく会話も噛み合っていないのに、かいちょは(あで)な笑みを向ける。学園のネコと呼ばれる子達ならきっと崩れて落ちているだろうね。 「で、どうする?」  黙っていると腰を引き寄せられた。 肩を抱くまでの流れがスムーズで、相当遊んでいるなぁと他人事のように思う。空いた右手が耳に触れようとしたところでハタキ落としたけれど。 「お巫山戯はこれくらいにしようね、会長」  やっぱしかわいくねぇと漏らすかいちょは持ち場に追いやった。そっちこそ気軽に色気を振りまくな。 ────その後、伊織ちゃんの手伝いをしていたら遅れた詫びを求められた。 「その真意は?」 「夕食を一緒に食べたい、先輩の口実です……ではダメですか」 「満点です」
/113ページ

最初のコメントを投稿しよう!