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◇
「また後で伺いますね。何か持ってきて欲しい物はありますか?」
「着替えだけしてくれば十分だよ。大したおもてなしは出来ないけどね」
「いえいえ、私の我が儘ですし。では改めてまた」
毛足の長い絨毯がひかれ、大きな花瓶やアートパネルが飾られたラウンジのような空間で伊織ちゃんと別れた。柔らかな照明が照らすのはメインとなる寮の最上階、生徒会フロアだ。
およそ生徒が暮らす空間とは思えない此処は、東雲学園高等部。山の上にある全寮制男子校だ。資産家や政治家、芸道関係の家元に財閥など各界の子息が集まるエリート校。
高い教育レベルと惜しみなく投資された設備は驚嘆ものなんだが、
「不思議だよねぇ」
薔薇の楽園。同性愛の宝庫である。
教師もおとこ、生徒もおとこ。
初等部の時から男に囲まれ、隔離され。
長い間、そのような環境に置かれていたからか健全な青少年なら抱く欲は同じ男に向かう。
すっごいざっくり言えば、ホモがいっぱい。
痴話喧嘩だって見るし、物陰で情事に遭遇することもある。というかおれ自身、押し倒された経験は数え切れない。かわいらしい子だって案外力があるんだよねぇ、じゃなくて。
普通に考えたら可笑しい、というか非常識なのだが大半の生徒はそれを受け入れている。むしろ染まりきっている。
初等部からの内部進学が多い東雲で一般的な常識と比べていたら生きていけない。
正直この他にもマジかよ、みたいな反応をすることになるのでハードルは高くしておいた方がいい。アレによく使われる空き教室なんかをマスターしてからが本当の東雲生。どこか殺伐としてはいないだろうか。
個人的には愉快な学校で気に入っている。人間すぐ慣れるから大丈夫だ、というのは数少ない外部生に向けたものだ。その外部生も東雲に来るだけあって肝が据わっているんだけれどね。
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