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ふわとろの卵とバターライスのオムライスが綺麗に完食されていく。
カトラリーが置かれ、美しい所作で手を合わせる、そんな伊織ちゃんは満足そうにグラスを持ち上げた。
「千歳は相変わらず料理が上手いですね。
前よりも上達していて、凄いです」
「そうかなー」
「将来はオムライス職人になれますよ」
「伊織ちゃん専属の?」
「言い値で雇いましょう」
リビングキッチン越しに会話を交わす。
純粋に料理を褒められるのが恥ずかしくって、皿を濯ぐ水圧をあげる。食洗機が動き出した後、黒いエプロンを脱いだ。
まったり寛ぐ伊織ちゃんの向かい側。カウチに腰を落とすと緩やかな眠気が襲ってきそうだ。軽く目を擦って誤魔化す。
「伊織ちゃ、」
だがそれも
「千歳、貴方には今から共犯者になってもらいます」
謎の発言によって掻き消された。
「共犯者」が耳の奥で反響する。明らかに悪いことを示唆するそれに、今日の本命を瞬時に悟った。
「具体的に言うと……?」
「安心してください、ちょっとした秘密をお話しするだけです──理事長の」
……は? 目が瞬きを繰り返し過ぎて乾きそうだ。そんな軽いノリで言うことではない。
伊織ちゃんの発言にはイエスかハイで応えたいが今回ばかりは逃げの一手をとりたいよ。
お勉強は苦手じゃないのに、固まる脳をフル回転させて出てきた言葉は
「───伊織ちゃん、お風呂にでも入ろう」
おれの発言で微妙な空気が漂ったが気にしない。憮然とした表情の伊織ちゃんをバスルームに押し込むようにして連れていく。
流石に語弊やらを考えれば、もっと言いようがあっただろうに。
いやだって絶対碌なことじゃない。
ああ、もう。伊織ちゃん、悪いけれど浴室から出ないで欲しい。
あわよくば唐突で局所的な記憶の喪失をしてくれたら、嬉しいな。
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