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「逃げないでくださいね」
────願い虚しく伊織ちゃんは出てきた。
退路を完全に塞いだ状態で笑う伊織ちゃんに小さく頷いた。水も滴る美人が過ぎる。
生徒会は『抱きたい・抱かれたいランキング』の上位が就任するのがセオリーだ。
東雲において生徒会が持つ役割は大きい。
その分、握る権力や発言力が強くなる。
誰を選んでも多少の不平不満は出るだろうが、大半の生徒が納得することも重要だ。
そこで上記のランキングを利用し、支持を抱えた人材を炙り出す。純粋な憧れと邪な感情が入り乱れたランキングは我が校の伝統である。
伊織ちゃんは抱きたいランキング1位。
艶のある黒髪と僅かに青みがかった瞳、それらを収める鋭利な顔立ちは美しいと評判だ。
火照った頬と、睫毛の上で雫となって落ちていく水滴。学園の野郎ならワンパンでやられてしまうであろう美貌をあまりさらけ出さないでくれないだろうか。
「湯上がりの伊織ちゃん……親衛隊に火刑で処される案件」
「提案したのは貴方でしょう。それに私だって手料理を頂いてますし」
簡単なやつだよ。そう返したが頭を振った。シャンプーの香りが広がる。
おれが変態みたいで非常にいたたまれなくて、掴まれていた指を外す。
「まあいいです。本題に入りましょうか」
何がだよ。クッションを抱えて顎を埋める。そんなに緊張しなくていいと言うが、無理。共犯者=犯罪の方程式が完全に作り上げられた頭が拒絶反応を起こす。
だが、
「明日、転校生が来るのですよ」
一拍おいて告げられた内容は、何ともリアクションに困るものだった。
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