1人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
お父さんに、買ってもらった望遠鏡。
今日は家族で、月を見に来たんだ。
夜の山は暗くて静かで、ぼくたちの話し声を、動物たちがこっそりと聞いてる気がする。
お父さんが、望遠鏡をよいしょと持ち上げる。
「ちょっとだけ待っててね。すぐに見られるようにするから」
「わかった」
ぼくは、いっしょに持ってきた双眼鏡で、夜の山に隠れてる動物を探し始めた。でも、暗くてちっとも見つからない。
ぼくの後ろで鼻歌をうたってるお父さんを双眼鏡でのぞくと、お父さんはいつもより大きく見えた。反対にしてお母さんを見ると、お母さんはにんじゃみたいに、あっという間に遠くに行くんだ。
「夜の山は冷えるから、スープを飲んで」
さっきまで遠くにいたお母さんが、となりでスープの入ったカップを差し出した。
「よおくかきまぜてね」
わたされたスプーンに映るぼくは、さかさまだ。
大きなお父さん、遠いお母さん、さかさまのぼく。だれも変わっていないのに、どうしてこんなに違って見えるんだろう。
「準備できたぞー。おいで」
お父さんに呼ばれて、ぼくは望遠鏡を覗く。
「すっごーい!」
遠くのお月様が、手を伸ばしたら届きそうなくらい、大きく大きく見えたんだ。
ぼくは思った。望遠鏡から見るぼくを、お月様が見たのなら、ぼくはどんな風に見えるんだろう。
アリみたいに小さいのかな。それとも、ぼくだけ遠いのかなって。
最初のコメントを投稿しよう!