たねまきひなた

5月11日

今日は久しぶりの出勤日。しっかり目覚ましで起きて、会社へ向かう。

今日も製造数は少ないため、半日で仕事を終えたひなたはホームセンターへ向かった。

そして、一通り見て回り、何となくガスコンロの売り場を見る。昨日にガスコンロは購入したので、買う必要はないのだが、何となく気になった。

しかし、魚の両面焼き機能がついている物は一つも無い。少しほっとしつつその場を立ち去ろうとした時だった。

大特価！15000円 ！！

ガスボンベと、カセットコンロの間にある値札が目に入った。ひなたは立ちどまり、値札の貼ってある商品を見る。

両面焼き機能付き！コンロタイマーもついてます！

ひなたが一番欲しいタイプのガスコンロである。さらに、ガスの種類も、強火の向きもアパートにしっかり適応している。

うーわ、いらんもん見てしもたな。

ひなたは少し複雑な気持ちになる。昨日買ったコンロでも充分安くて、機能もまあまあである。

しかし、この先魚をひっくり返して焼く度に、今日のコンロを思い出してしまいそうだ。

「すいません。このコンロなんでこんなに安いんですか？」

ひなたは思わず、後ろを通りがかった店員さんに質問した。

「あー、よう見つけはりましたね！これ最後の一台なんです……ってひなた！」

やっぱ隠すように置いてあったんやと思いながら、名前を呼ばれたので顔をあげると、友達の母だった。小学生のサッカークラブでお世話になったのでよく覚えている。顔もそこまで変わってはいなかった。

「あー！久しぶりですね！」

ひなたも興奮気味に声を上げた。

「えー、コンロ何？一人暮らしするの？」

「いや、彼女と同棲する事になったんですよ」

「いいなあ！昔からよーモテるなー！」

友達の母は、ひなたの肩を叩きながらげらげらと笑った。昔からもてた覚えもなければ、友達の方がよくモテていた。

「なんでなんすか。えー、これちょっと相談してきますわー」

苦笑いしながらひなたはその場を立ち去り、昨日購入した店へ電話をかけた。返品可能との事だったので、こっちのコンロを買うことにした。

お会計を済まし、店を出る。昨日の店には申し訳ないが、ひなたはご機嫌だ。両面焼きのコンロが一万五千円なんて聞いたことがない。車に積み込み、エンジンをかける。

今日は暑いが、エアコンをつけるほどの暑さでもないので窓を全開。ひなたはこの風が大好きだ。あまりの気持ちよさに、熱唱しながら信号を待っていると、横断歩道にいた女子高生と目が合った。指をさしながらゲラゲラ笑われたが、今やめると更に恥ずかしい事は知っているので、構わず歌ってやった。

そうして、清々しい程の青空の下、念願のコンロを積んだ車は、ひなたの下手くそな歌声とともに街を駆け抜けて行った。