5月1日

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5月1日

今日も仕事は休み。 朝、いつもより寒さを感じ目を覚ますと、いつもと違う天井が目に入った。 テントで一晩過ごした事を思い出し、家の中に入る。上着を1枚羽織ってまたテントへ戻る。頭も覚めてきたところで鳥の鳴き声に起こされなかった事に軽くショックを受けた。 そしてまた眠りにつき目を覚ますと九時。 母に洗濯物を干すのを頼まれ、仕事へ行く母を見送り、少し冷たい畳の上でだらだら。今日も特にやることは無い。 青空の下に洗濯物を干し終え、YouTubeで好きなお笑いタレントのおもしろ場面を集めた動画を見ながら、今日一日の予定を立てる。 そしてひとしきり笑ったあと、ルーズリーフとボールペンをテーブルに置いた。部屋は太陽のおかげで電気をつけなくても充分明るい。 そして、作りかけの新しい小説のプロットを書き始める。プロットと言ってもそこまで本格的なものではなく、だいたいのストーリーや、登場人物の性格や年齢、話における役割等を箇条書きしただけのものである。 そして集中力が途切れた頃、お腹も鳴き声をあげたので、お昼にすることにした。 時計を見ると三時。だいぶ集中していたようだ。 ご飯を自分のためにつくる気にもならず、カップ焼きそばにお湯を入れる。待ち時間が一分なのはありがたい。 スマホの画面が光り、着信をしらせる。 「やばい」 焦った様な声の主は三つ歳下のバンドメンバーの廉だった。 「どしたん事故でも?」 少し心配になったひなたの声も少しいつもより低くなる。 「やることなさすぎ、暇」 ひなたの心配をよそに、廉は何もやばくない事を告げてきた。そんなことで電話をかけてくる方がやばい。 「ごめん。忙しい。今焼きそばお湯捨てるところ」 ひなたは少し笑いながら電話を切る流れへ話を持っていく。もうお湯を入れてから三分は経っている。 「ちょー、まじ暇やねんて。あそぼーや」 この時期、遊びに行く場所もなければ、ウイルスに感染するリスクもある。ウイルスが無ければ、即待ち合わせ場所を決め、出かけていたと思うが、今は少し腰が重い。 「コロナ終わったらな、じゃ」 少々強引に電話を切り、焼きそばのお湯を捨てる。ソースをかけ、口に入れると麺はふにゃふにゃ。廉も同じ目に遭う事を祈った。 そしてふにゃふにゃの焼きそばを食べ終え、あまりにもいい天気なのでドライブに行く事にした。車も最近は仕事が無いため乗っていない。たまには乗ってあげないと可愛そうだ。 下手くそな鼻歌を歌いながらクルマに乗り、街へ出かける。車の窓を開けると柔らかな風が入り込み、車内を快適空間にしてくれた。 気分よく一時間半程車を走らせ、そろそろ家に帰る事にした。少し赤くなった空が、田んぼの水面に反射して、思わずひなたはそれに見とれる。暖かい春風が頬を撫で、草木を穏やかにゆらゆらと揺らしている。 ひなたはこの季節が好きである。 この田舎独特の風景、匂い、感触がとても心地よく、大好きな夏が近づいて来ることを知らせ、大嫌いな冬の終わりを感じられるからだ。 春の訪れを胸いっぱいに感じ、満足して、家へ帰り、日記をつける。今日は特になにも無かったが、春の訪れをたくさん感じれた。 何も無い一日というのは今日を無駄に過ごした事になる。常に様々な事を感じられるような生活を送りたい。 そう思ったひなたは、今日の出来事をありのままに日記につけるのであった。
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