5月7日

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5月7日

今日は久しぶりの出勤である。 しっかり五時半のアラームで目を覚ました。外はまだ少し薄暗く、肌寒い感じもする。 朝ごはんを食べ、しっかりと目を覚まし、車で会社へ向かう。 ひなたはお菓子の工場で働いている。 お菓子の工場ってなんか夢あるな!くらいの感覚で入社を希望した。 後悔していないと言えば少し嘘になる。しかし、周りの人達にも恵まれ、特に不便なく、四年目を迎えた。 「ひなたさん聞いてくださいよー」 工場の中に入り機械をくんでいると、後輩の女の子が話しかけてきた。名前は田中さん。 「なんや、中田ちゃん。失恋でも?」 こんな事を聞いたら今時セクハラ等と騒がれる可能性も無くはないが、ひなたは躊躇せず返事をする。 「違うわ!ほんで田中な!口内炎ばり痛いねん」 普通にタメ語で返して来た田中さんに、ひなたはいつからか違和感を感じなくなっていた。これが二人の関係ないである。普通の友だち。それ以上でもなく、居心地のよい関係である。 「お、同じや。僕も昨日なったとこ」 偶然同じ日に口内炎になった事が少し面白くて仕事を忘れ、話が盛り上がった。 「お前ら、仲ええなあ。ひなた、浮気はあかんぞ」 振り向くと、背の高い工房長が、僕達を見下ろしていた。何か機械の設定をしていたのか、制服が少し黒ずんでいる。 「浮気ちゃいますよ。何を言うてはるんすか」 ひなたも思わず反論する。 「そうですよ。まず、ひなたさん男って感じしないですもん」 加えて田中さんも反論。二対一。相手が工房長であろうが勝利確定である。 「男って感じせーへん言われてるやん」 工房長がげらげらとひなたを指を指して笑う。ひなたもヘラヘラと笑い返す。 「男ってかんじせーへん」 ひなたが今まで色んな人に言われてきたことである。ひなたはそれに少し安心する。 ひなたは実は、あまり男として見られることが好きではない。かと言って女として見られたいと聞かれれば、答えはNOである。 それに気づいたのは、高校一年生の時の人生二人目の彼女と付き合っている時だった。 高校生の恋愛となると、身体の関係をもちたがるカップルは少なくない。そして、当時の彼女もその一人であった。 しかし、ひなたはそれに応えなかった。好きという気持ちだけで、付き合っていたかったからだ。 それから彼女に振られた。理由は男として見れなくなったから。 その事を友達に相談すると、「それはお前が悪いわー」と言われるばかりで、自分は何かおかしいのかと不安になり、沢山悩んだ。 昔から、おっとりとした性格の為、女子と話している方が楽しい時は多々あるが、それからは友達以上の感情を持たないように接している。 それがお互いにとって居心地いい関係である、と思っているからだ。 しかし、今の彼女はそんなひなたを受け入れてくれ、身体の関係も結婚してからでいいと言ってくれた。お互いありのままの自分を出していれてるような感じがして嬉しく思っている。 なので「男ってかんじせーへん」というのは、ひなたにとってはありがたい言葉であり、普通に仲良くしてくれる事に感謝している。
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