8人が本棚に入れています
本棚に追加
5月8日
今日も仕事は休みだ。
七時に目を覚まし、洗濯物を干す。
そして、朝ごはんを食べ、部屋からギターを取り出し、リビングへ持ってくる。
昨日、友達から煐人の香水という歌を教えてもらい、その曲のギターがとてもかっこよくて弾きたくなったのだ。
しばらく練習して、ある程度形になった時、友達から電話がかかってきた。
「今日暇?遊ぼぜ」
「ひまひま!遊びましょ」
お昼ご飯を食べてからの集合となったので、練習を続けているとあっという間に時間になった。
「うぇい。俺結構弾けるようなったで」
家に着くなり、友達が自慢げな顔を見せてきた。家の中から猫の鳴き声が聞こえる。
「まじか、僕も結構弾けるようなったで」
軽く会話をしてから玄関に入り、友達の部屋にお邪魔する。
それから一時間ほど曲をあわせながら楽しんでいた頃だった。
「わんこー。久しぶりー」
半開きのドアから友達の妹が顔をひょこっと出す。
わんこというのはひなたの事で、なんか犬みたいだからという事らしい。もうそう呼ばれて五年ほど経つのでもう何も思わない。
「久しぶりー。……うわっ」
ひなたは思わず変な声をあげてしまった。
「ニャー」
妹の肩にはかわいい猫が乗っていた。名前はタマ。タマはひなたの顔を見るなり、怒ったような声を出した。
タマとひなたは犬猿の仲である。
二、三年ほど前、友達から猫を飼ったとの連絡が来たので、猫好きなひなたはすぐ家に遊びに行った。
「お邪魔します!猫ちゃんどこや猫ちゃん!」
ひなたははやく猫を見ようと大きな声を出しながら家の中に入った。するとリビングでまだ生後二ヶ月くらいの可愛い子猫が真ん丸な目でひなたを見ている。
「かわい!!猫ちゃん!!!初めましてやな!仲良くしてな!!!」
あまりの可愛さに、テンションが上がり、猫のそばへ駆け寄り、撫でようとした瞬間。
「シャー!」
子猫が爪を立て小さいながらに、ひなたを威嚇した。
「え、なに今の。怒ってるやん。ほれ、仲良くしよーよー」
ひなたもめげず猫に近寄るも、効果はなく、懐いてくれる気配がない。
「ほら。仲良くしてくれたらチュールあげるぞ」
自力では無理だと諦め、餌で猫からの好感度をあげる作戦に切り替え、手をだしたその時。
ベチッ。
鈍い痛みが腕に走った。何をされたのか、猫の顔を見ると、大きく口を開け、ひなたを睨みつけている。
「あー!こいつ!猫パンチしたぞ!」
さっきまで可愛いと騒いでいたのに猫パンチ一発でこいつ呼ばわりになるひなた。
そこから何をしても威嚇されるだけなので、猫と仲良くなるのは諦める事にした。
それからも家に遊びに行くなり、タマに睨まれる事は無くなることは無く、今に至る。
「ほれ、タマちゃんこれギターやど」
ひなたはお気に入りのDを鳴らす。
タマは相変わらず怒った顔をしている。
「あかんな、ひなためっちゃ嫌われてるやん」
友達もこれには苦笑い。そこから何度も話しかけるもひなたの一方通行である。
そして日も暮れてきたころ、晩御飯の食材を買わないと行けないのでひなたは、家に帰る。
階段を降り、玄関に出た時、妹がまた猫を肩に乗せてやってきた。
「タマちゃんバイバイして」
妹もタマに挨拶するよう促す。
「そやで。タマちゃんもほんまは僕が帰るの寂しいんやろ」
ひなたも調子に乗って、タマに話しかける。飼い主の言うことなら聞いてくれるだろう。
「シャー!」
「わー!お、お邪魔しました!またね!」
早く帰れと言わんばかりに威嚇されてしまったので大人しく玄関を出てほっと一息。
まだまだタマとは仲良くなれそうにない。
少し寂しい気持ちになりながらエンジンをかけ、家に帰った。
最初のコメントを投稿しよう!