けっして人格者ではなかった魔光結晶解析学の父・烏丸太洋について

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 読者諸氏の中には、学生時代の烏丸が自分のサンプルを遠心するために使用中の高速遠心機を勝手に止めて中に入っていたマニ車を取り出したという逸話を聞いたことがある人もいるかもしれない。  この時に烏丸の口から発せられた「そんなくだらないものを回すより、俺の実験の方がよほど重要だ」という名言(?)とともに伝えられているこのエピソードは、最近では来世よりも研究を重視する烏丸のストイックさを現すものとして語られることが多い。  しかしながら、その見方は間違っていると私には断言できる。なぜなら烏丸は、他人が遠心していたのが実験に使うサンプルであった時も、やはり遠心機を勝手に止めてサンプルを取り出し、自分のマニ車を回すのにその遠心機を使っていたからである。「そんなくだらないものを回すより、俺の来世の方がよほど重要だ」と言って。  要するに、烏丸が自分の研究のために他人のマニ車を勝手に遠心機から取り出したのは、あいつが研究より来世を重視していたからではなく、単に傲岸不遜で自分勝手な男だったからというだけの話なのだ。  なぜこれらの事例にそれほど詳しいのかと言えば、どちらのエピソードにおいても、使用中の高速遠心機を勝手に止められてしまったのは何を隠そう他ならぬこの私なのである。  抗議する私を鼻で笑いながら上記の台詞を口にした時の烏丸の表情を、私は今でも鮮明に思い出すことができる。  私はこの傲慢な同期をなんとか見返してやりたくて研究に励んだが、烏丸との差はむしろ開く一方であった。そしてそれに伴って、烏丸の私に対する態度はますます尊大になっていった。
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