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「ちょっと店長! それ、発見したのあたしですよね?」
花屋エリアから現れた彩音が、援護に加わる。
「十本以下なら許容範囲だとか何とか言ってて、無理矢理防犯カメラ設置したのもあたしなんですけど」
「そうでしたっけ?」
わざとらしく目を丸くした六華は、川村に目を戻した。
「まあ、そういうわけで、二十一本目からは多分店内であなたが窃盗する瞬間が映ってると思うんですよ。ストーカーも明らかですが、きょうび、花を贈るだけじゃ実害がないとか言って警察も動いてくれません。けど、窃盗犯なら逮捕して貰えますからね」
目の笑っていない六華に、次第に震え始めていた川村は、何だか分からない雄叫びと共に花束を放り出した。
次いで立ち上がって駆け去ろうとするも、その進路に彩音がさっと足を差し出す。
もんどりうって倒れ込んだ川村に素早く飛び掛かった彩音は、彼の腕を背後へ容赦なくねじ上げた。
***
「まあ、そうは言っても古来、花盗人は罪にならない、なんて言われてますしねぇ……」
やがてやって来た警察に引っ立てられる川村を見送りながら、六華はポツリと呟いた。
「遠からず釈放されちゃうかも知れません。その前に是非引っ越しをお勧めしたいところですけど、柊さん今大学生ですよね?」
「はい。でも、今年四年ですから」
「そうですか。まあ、住まいを変えるだけでも対策にはなると思いますよ」
「店長ー。あたしの引っ越し代って出ます?」
巻き添えの形で危ない男に住まいを知られた彩音が、何とも恨みがましい声で会話に加わる。
「総額いくら掛かるかによりますけど……気持ち的には半分は出して差し上げたいところですね」
「やった!」
「……気持ち的にはって言ったの、聞いてました?」
「聞こえません! 半額、出してくださるって言いました!」
意気揚々と言いながら花屋エリアへ戻る彩音を、六華が肩を落として見送っている。
それを見た志史は、思わず微苦笑をこぼした。
【了】
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